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    幸福度調査で日本58位  
       調査の真の意味
09.22.2019
               



 かなり前の話になるが、今年の3月20日に、国連の「世界幸福度報告書」2019年版(7回目)が発表された。「国連の」と書かれているが、特定の国連機関が作っているということではなく、2012年に第1回目の報告書が発表されているのだが、その報告書が、国連のハイレベルの会議「Wellbeing and Happiness:Defining a New Economic Paradigm」によってサポートされたということで、「国連の」になるようだ。

 今年のレポートは、いささか衝撃を与えたとも言える。日本の幸福度がまたもや低下し、58位となった。しかも、これは個人的にもかなり衝撃的なのだけれど、韓国は54位で、なんと負けている。韓国の今の政治は、国民の嗜好をかなり反映しているのだろう。

 この調査における幸福度とは、実は、国民の単なる主観である。自分の幸福度が0から10のどの段階かを答える世論調査によって得られた数値に過ぎない。要するに、国民の主観の平均値を数値化したものである。

 しかし、重要なことがある。それは、この報告書においては、国民の主観に過ぎない幸福度を、その国のGDP per Capitaや健康寿命、さらには、社会的支援、選択の自由度、寛容さ、腐敗の認識、以上6種の変数として別途解析し、このような手法によって説明可能かどうか解析する、という試みが追加されている。

 そして、
https://www.huffingtonpost.jp/entry/world-happiness-ranking-2019_jp_5c906a19e4b071a25a85e44c
に見られるような、グラフでの表記になっている。ただし、このサイトで示されているグラフは、2016年から2018年の平均値だと思われる。グラフが大きすぎるので、ここには掲載できません。ご自分で、ダウンロードしていただけますか。

 もともと全くの主観であるので、こんな調査に意味があるのか、という見方をする人もいるし、やはり重要なのだという見解を述べる人も居る。重要度はともかく、ある種の指標であることは確かなので、少なくとも、なぜ、評価値が下がったか上がったか、といったことを議論するぐらいのことは、自らの国の状況を知るために、すべきなのではないだろうか。

 さらに、本記事の後半で述べるように、このグラフ表記されたバーの色分けを厳密に解釈すると、かなり面白いこともわかるのも、この幸福度調査の面白い仕掛けではある。


C先生:「幸福度など、個人的な感覚さ」、という考え方もあるだろう。まあ、その通りである。「最近の若者の感覚について、理解ができていない」ということが、今年のサマースクールにおける一つの重大な結論なので、偉そうなことは全く言えるような立場ではないことは承知した上で、やはり、それでも幸福度は高い方が良いのではないか。幸福度1位の国になるには、どうしたら良いか、これを考えることも、今後の社会の在り方を検討する場合には、十分に意義のあることではないか、などと思っている。

A君:これまでも幸福度に関係するいくつかの要素、例えば、健康寿命の長さと、それを短くする要素の分析などは、WHO(国際保健機関)などのデータから、若干の判断を行うようなことをやってきました。しかし、この幸福度調査を取り上げるのは初めてですね。

B君:基本がアンケートによる調査なので、回答者の性格によって、結果が変わるのが当然日本人の場合、幸福ですかと聞かれると、多少の不満はあっても、「まあまあですよ」という回答をする人が多いのでは。逆に、本心を明かせば、実は、相当に幸福であるのに、「まあまあですよ」と回答する人は、さらに多いのでは。ちなみに、回答は、0〜10の数値で答えるのだが。

A君:それだけでその国の幸福度が決まってしまう、のでは、余り意味がないので、この国連の幸福度調査の場合、6つの要素を選択して、それらによってその国の幸福度がどのように説明できるかという解析を行っています。その説明変数として選択された6つの要素とは、
1.一人あたりGDP(対数)
2.社会的支援(ソーシャルサポート、困ったときに頼ることができる親戚や友人がいるか)
3.健康寿命
4.人生の選択の自由度(人生で何をするかの選択の自由に満足しているか)
5.寛容さ(過去1ヶ月の間にチャリティなどに寄付をしたことがあるか)
6.腐敗の認識(不満・悲しみ・怒りの少なさ、社会・政府に腐敗が蔓延していないか)


B君:この6つの要素について、幸福度の構成要素としてどの程度の寄与率であるかについて解析が行われている。しかし、この6つの要素だけで、幸福度のすべてが説明できるとは限らない。

A君:2016年から2018年までのデータを解析したものが、先にURLを紹介した報告書にでている。余りにも大きな図なので、ここでは、掲載不能。

C先生:このサイトには、かなりのコメントが投稿されているね。他国の悪口を言っている人が多いのは、要注目だね。

A君:否定的な意見の人は、どうも、日本が下位に落ちたのが単純に気に入らないような感じのように受け取れます。しかし、この幸福度の意味するところを十分に理解して文句を言っているという訳ではなさそうです。

B君:日本の場合、最初の3項目、すなわち、GDP、社会的支援、健康寿命までだけで比較すると、世界17位ぐらいになるのですよ。しかし、自由度、寛容さ、腐敗が低い。特に、寛容さが低いのだけれど、これは、同様の指摘も多いのだけれど、「過去1ヶ月の間に寄付をしたか」がその内容であって、これは、寄付文明というものがあるかどうか、言い換えれば、「最後の審判」のストーリーによって、「寄付」が体に染み込んでいるキリスト教の考え方だけを考慮しているのだとも言える。

A君:確かに、その通りだと思う。しかし、韓国との比較をすると、なんと、要素6番目の腐敗の認識というところでも抜かれている

B君:それは、どうすれば説明可能になるかな。韓国の政治の現状を見ると、大統領を終わると投獄される国だが。

A君:確かにそうだ。ほぼすべての大統領が刑務所に入るなどといった終末を迎える隣国と、日本とを比べると恐らく、日本の方がまだ相当にまし。日本人は潔癖症なので、しばらく前のことだが、文科省などの役人の行動が酷かったことなどが、悪影響をしていると考えるべきなのではないかと思います。それとも、他に何らかの要素はあるのだろうかと考えると、日本人の正義感の強さが反映されているという解釈が普通のように思えますね。

B君:韓国の場合、かつての両班制の長い長い歴史から抜け出せていない。そのため、海外の国と何らかの約束をして、それに対して心理的に不満がある国民がいるとなると、約束の方が悪いとして反故にする。こんな国は、世界に他にない。腐敗について言えば、韓国を含めた他国と比較すれば、日本はこれでもまだマシな国だと信じる。

A君:あれ。今更気付いたのですが、グラフの色分けは、6項目ではなくて、もう一つ7項目がありますね。

B君:本当だ。7項目とは何か。英語の例示によれば、Dystopiaと書いてあるように見えるが。

A君:Dystopiaか。ユートピア(Utopia)の反対語ですが、なぜここに。日本語訳をGoogle Translateにきいてみたら、暗黒郷だそうで。

B君:実は、それだけではなくて、Dystopia+Residualとも書いてある。これは、一般には「残り・余り」だけれど、「説明不能」という部分ではないか。この第7項目は、実のところ、さらにしっかりと高度な解釈をしなければならない項目なのだと思える。

C先生:なるほど、初めて分かった。細かい説明は見つからないから、しっかり議論をした上で、最適な解釈を見出す以外になさそうだな。

A君:最後の薄紫色の部分は「説明不能部分」+「国民の感じている国の暗黒感の逆数」ですか。1から6、すなわち、GDP、社会的支援、健康的生活、人生の選択の自由度、社会の寛容度、腐敗していない、以上の6種だけだと説明ができない部分であることが確実。例えば、日本の場合、1から6だけで評価すれば、25位になるぐらいの国なのに、第7番目の長さが短いために、58位になっている。

B君:その理由不明さを明らかにしないと。

A君:日本の場合、この7番目の紫色のバーの長さが短い。ということは、国民が、日本をユートピアだとは思っていないで、ディストピアだと思っているということ。1〜6までだけならば、実質上、もっと幸福に思ってよい条件なのに、どこかが悪くて、高い評価ができていない。

B君:それだと、最後の紫の部分は、むしろ、「自国を誇りに思うか」とでも解釈すべきなのでは。

A君:それが良い解釈でしょう。7番目が長い国とは、1−6のような現実的な理由が余り強くないのに、なぜか満足度が高い国であることを意味する。すなわち、大きな補正項が必要とされる国。まあ、現実的利害以外の理由で自国を高く評価し、国を愛する国民が多いという国だとも言えそうです。

B君:どんな国が、その第7項が大きいのか、とチェックしてみると、最大の国が、第12位のコスタリカ。

C先生:なるほど。あの国は、過去の政治家、特に、アリエス大統領がなかなか優れていたと思う。最近の状況を知らないけれど、多分、今でもよい政治の伝統が継続されているのではと思う。

B君:次がイスラエル、そして、メキシコ、グアテマラ、ブラジル、エルサルバドル、パキスタン。いずれも、自己満足が強い国のように思える。あれ、東アジア、東南アジアの国がこの中に無いね。

A君:そして、1から6までの項目の点は良いのに、逆に幸福度が低い国が、カタール、シンガポール、スロベニア、クウェート、エストニア、そして、日本だということ。

B君:まだある。最悪なのが、実に香港だ。なんと76位。もし、第7項がなければ、ベスト20に入るぐらい1から6までの合計点はすごく良い国なのに。

A君:それが、今の香港の悲惨な状況になった原因だと言えるでしょう。過去の英国領の時代の自由さと比べると、多くの香港住民にとって、今の状況の悪さがどうしても許せないのでしょう。当たり前だと思いますけどね。

B君:その次ぐらいに悪いのが、なんとシンガポール。全体的な順位は、34位。しかし、もし、第7項目が普通程度であれば、なんと世界のトップにくる。すなわち、1〜6の状況は、世界最良の国なのに、第7項目のお蔭で34位。

A君:現在のシンガポールは、国民からみて政治的にどこが悪いのだろうか。

B君:いや分からない。

C先生:確かに良くわからないね。ただ、なぜか、無暗と競争が激しい国のようには思うのだ。大学のランキングなどになると、非常に強い国だ。しかし、これが幸福につながるとは思えない

A君:2019年発表のQSランキング(Quacquarelli Symonds社)によると、シンガポール国立大(NUS)と南洋理工大がアジアの大学では1位と2位です。

B君:確かに、彼らは強い。なぜならば、それなりの努力をしている。このQSランキングは、6つの指標を用いている。NUSと東大の数値を見ると、
                 NUS   東大
1.学術関係者の評判(40%) 99.8    100
2.雇用主の評判(10%)   99.1    99.5
3.教員・学生の比率(20%)  91.8    94.2
4. 教員の論文引用数(20%) 72.8    72.2

5. 外国人教員の比率(5%)  100    12.3 大敗。しかし100%がなぜ良いの?
6. 留学生の比率(5%)    80.7   25.5 大敗。しかし、80%が良いの?


A君:東大がNUSに確実に負けているのは、実は、5.6.だけ。シンガポールは、公用語が、英語、標準中国語、マレー語、タミル語と4つもある国。もともと多民族国家なので、当然ともいえます。人口の割合は、中華系 74.3%、マレー系 13.4%、インド系 9.1%、その他3.2%。多分、マレー系は、英語を余り話さないのでは。中国系でも全員が英語を話すとは限らない。そこに、外国人教員しかいないNUSがあること自体、国民にとって、政策的に大きなストレスなのかもしれない。

B君:ホッコリ感の無い国という表現はどうだろう。なんでもゴリゴリやるシンガポールといった感じ。

C先生:元に戻って、これまでの議論で、この図の本来の読み方が分かったように思う。もう一度繰り返すけれど、もしも、1−6の項目、すなわち、GDP、社会的支援、健康的生活、人生の選択の自由度、社会の寛容度、腐敗していない、の6項目だけで評価したら、日本の国の幸福度は、世界でも25位前後だということを意味する。

A君:それにも関わらず58位などに落ちているのは、なぜか「幸福感といったものが無い国だ」という結論で良いですかね。政治・経済に、なんとなく閉塞感があって、良い国だとは思えないからかも。個人的には、確かに、小選挙区制ができてから、政治に満足できない

B君:寛容さの指標が寄付行為だけなので、キリスト教徒に有利な評価項目になっているという主張がある。これは事実。しかし、だから日本の幸福度が低い結果になっているのか、と言われれば、必ずしもそうではない。むしろ、国民の幸福に対する考え方が、どこか他の国とは違っているから幸福な国になれない。

A君:日本とは全く違った傾向の国、すなわち、1ー6までで評価したら、かなり不幸な国になるはずなのに、まずまずの順位になっている国、言い換えれば、第7項が長い国が、すでに述べましたが、若干追加して再度記述すると、コスタリカ、メキシコ、グアテマラ、ブラジル、ニカラグア、コソボ、エルサルバドル、ホンデュラス、ボリビア、パキスタン

C先生:さすがにちょっとだけでも行ったことのある国は、メキシコとブラジルだけなので、とてもとてもその理由は分からない。なんとなく、中南米の国が多いような気がする。コソボはヨーロッパなので違うが。

A君:中南米ですか。歴史的には、植民地化されてひどい扱いをされたところが多いということですか。

B君:そうとも言えないようだ。例えば、コスタリカは、スペイン人渡来時に先住民はすでに未知の病気で存在していかなったとされるようだ。しかし、他の植民地と同様に、本国からの課税が容赦なく取り立てられた。独立後、コーヒー・ブームによって発展、そして、1949年に制定された憲法は、高度に民主主義的なものだった

A君:その後、コスタリカは、社会福祉、教育に力をいれ、中米の模範国になった。アリエス大統領は、ノーベル平和賞を授与されている。なんとなく、誇り高い国であるように思えますね。やはり、政治家が偉いのでは。

B君:次はメキシコ。メキシコは、実は、極めて古い文明のある国で、やはり誇り高い国ではあると思う。さらに、陽気さもあると同時に、「組織の成功に貢献しようとするモチベーションの高さランキング」で、メキシコは世界第3位

A君:日本のこの同じランキングは、なんと世界の最下位メキシコ人は家族を大切にする国民性があって、社員の家族の誕生会までやるらしいです。メキシコ人は怒られることが苦手で、上司はとにかく部下を褒めるとのこと。

B君:中米は似たような状況だとして、スキップして良さそうだ。南米のボリビアは、首都ラパスが3600mの高地にあって、独特の文化をもつ他民族国家。先日、テレビでラパスの子供達の映像をみたけれど、すごくチャレンジングで、かつ、ポジティブな感じだった。

A君:中南米以外に行きます。まず、コソボ。あの地域は、結構、民族同士の戦いが多い。旧ユーゴスラビア連邦が崩壊して、アルバニア人とセルビア人の泥沼の民族紛争があった。コソボ自体は、アルバニア人が90%。コソボ紛争が終わったものの、失業率が2015年にはまだ57.7%という国。まあ、未来に夢を持つ以外に幸福になる方法論が無いということが共通理解になっている国かもしれません。

B君:最後がパキスタン。この国の説明も難しいね。もともとはイギリス領。そのとき、藩王はヒンドゥー教、住民はイスラム教。その後も、常に国内は戦乱が続く。東パキスタンは、バングラデシュとして独立。西パキスタンがパキスタンとなったが、安定した政治状態にならなかった。現時点ではやや小康状態とは言えると思うが、元々の不安定さ故に、現在が比較的良い状況だと思える、と考えるべきなのかもしれない。

A君:これらの国に比べると、バブル以降の日本は、なんとなく活力がない。一人あたりのGDPも増加しない。豊かさを感じられない。しかし、先日のサマースクールに参加してくれた院生・学生諸君との議論で、最近の若者は、今を高原状態にあると感じていて、それなりに幸福なのだという。

B君:となると、今、日本がハッピーだと思えないのは、高度成長時代に育った年齢層=高齢者が、過去に慣れていて、現時点の状況、特に、若者などの状況になんとなく不満があるから、ということなのかもね。

C先生:そろそろ議論のタネも尽きたように思える。あまり明快な結論にはならないけれど、この日本という国の幸福度がなんとなく低い理由としては、個人的には、政治家に人間性に優れた人材がいないからという不満が大きい、すなわち、政治の責任が大きいようには思う明るい未来を提示するよりも、目の前の利益を重視するタイプのポピュリズム政治がはびこっている。これをなんとかできたらと思う。それには、中選挙区制に戻したい。なぜなら、中選挙区だと、3人目の当選者に、ポピュリストではない人格者が入る可能性があるから
 こんなことをグダグダいっても、サマースクールに出席した若者達はそれなりに自分はハッピーなのだというから、まあ、それでも良いのかもしれない。しかし、今の若者達が、社会全体をハッピーにしたいと思ってくれているのかどうか、それが最大の問題なのかもしれない。そのような動きが若者達から出てくれば、日本社会のハッピー度は高くなるに違いないと信じている。それには、Friday For the Futureのような理念に同調する若者が増えることが望ましいのだが。今の若者にとっては、デモやマーチはカッコ悪いらしいのだ