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 米国の約束草案で日本窮地か 
   04.05.2015
  いよいよ始まった文書による国際交渉 



 約束草案を受け付けるサイトに、
http://www4.unfccc.int/submissions/indc/Submission%20Pages/submissions.aspx
3月末までに提出された4ヶ国(スイス、EU、ノルウェー、メキシコ)と、4月1日に提出された2ヶ国(ガボン、ロシア)の約束草案が掲載されています。

 米国の約束草案は、すでに予告されていた通りの数値でしたが、その文章を読んでみて、やはり数値だけでは意味が分からないけれど、文章を読むとその真意が多少見えてくる。したがって、日本の約束草案をどう書くべきなのか、といった議論をする前に、文章をしっかり読んで、その裏にある意図を理解しなければダメだ、と思いました。どうも、日本は米国によって窮地に追い込まれた感じがします。

 さらに、EUと米国の約束草案は、野心的なのか、を若干考えてみたいと思います。


C先生:現在検討中の日本の約束草案(INDC)ではあるけれど、その検討プロセスに大きな影響を与えると思われる米国の約束草案が、予告通りの数値で、予告通り3月中に提出された。数値はすでに分かっていた通りなのだけれど、その文章を読んでみて、はじめて、どう言う意図でこれらの数値が提出されたのかよく分かった。

A君:まずは、数値がらみの記述の確認だけを。
 2005年を基準年として、2025年に温室効果ガスの排出を26−28%削減する。28%削減を実現するよう、最大限の努力を行う。

B君:そして、次のようなグラフが出ている。



図 米国の1990年以降の温室効果ガス排出と2025年のターゲットの図示。

A君:米国は2020年の削減ターゲットを持っていて、それが17%削減。そこから、かなり急激に、具体的には、5年間で9−11%の削減を行うということを宣言したことになります。

B君:約束草案の原文を読んでみると、至るところに自らの意図を強調する表現になっている。例えば、
The United States is strongly committed....
The target is fair and ambitious.

 こう断言できるのはすごい!

A君:これもすごいです。
Additional action to achieve the 2025 target represents a substantial acceleration of the current pace of greenhouse gas emission reductions.
 現在の道筋を格段に加速する、と明言している。

B君:これが国際交渉というものなのだろう。やはり国際公約の2℃以下を重視している。
Substantial global emission reductions are needed to keep the global temperature rise below 2 degrees Celsius, and the 2025 target is consistent with a path to deep decarbonization.

A君:そして、これも国際交渉の約束事だけれど、きちんと2050年までを考えているという表現になっています。
This target is consistent with a straight line emission reduction pathway from 2020 to deep, economy-wide emission reductions of 80% or more by 2050.

B君:これは、もしもこの2つの公約、「2℃」「2050年世界半減、先進国80%削減」を無視するような約束草案を書いて、それを強行したら、例えば、島嶼諸国やバングラデシュのような国土が将来海面下になる国から、名指しで賠償金を要求されることを考慮しているのではないだろうか。

A君:日本からの約束草案も、野心的、意欲的であることを示すためには、このような「絶対に削減するぞ!」という意図を強烈に示す文章が連発されている必要があるということですね。

B君:上述の2050年に関する英語の文章だけれど、本当かどうかを検証してみると、2020年までにに17%削減、それが2025年に26〜28%削減。5年間で最大11%の削減。これを直線的に補外すると、25年間で55%削減になって、2005年を起点とすると、72%の削減という数値になって、2050年で80%に確かに近い数値になっている。

A君:計算上は確かにそうなりますね。

B君:しかし、米国はなぜ2025年の削減目標を提出したのだろうか。EUは2030年が目標年だというのに。2030年を目標年にすれば、37〜39%となって、ほぼEUと同じ数値になるのだが。

A君:EUが40%という数値にこだわったので、その数値に負けるのが嫌だったという解釈はどうですか。そのために、目標年をずらした。

B君:かなりEUをライバル視している数値だということになる。もし、そうだとすると、日本は、相当追い込まれたように思う

A君:その通りですね。2050年には80%といった削減の数値になることを見せることが必要になりますね。その80%削減という数値は、もともと2007年の安倍第一次内閣のときに日本が発表した数値なので。

B君:日本の約束草案も、かなり数値にこだわったものにしない訳には行かなくなった。もし、そうでないと、米国にかなり厳しく言われる可能性が高いということか。

A君:EUの40%にも、たしかにこだわりを感じるのです。2020年目標は、それだけでなくて、最終エネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を20%、エネルギー効率の改善を通じての一次エネルギー消費量をBAU比なので、なんとも言いがたいものの、20%改善を目指した。いわゆる20−20−20目標だったですし。

B君:EUは、それを2030年目標では、再生可能エネルギー導入量が27%にアップ。エネルギー効率の改善によって27%削減で、40%にした。

A君:しかし、米国の場合には、数字だけ出して、実際には共和党が議会の大部分を占めている状態では、その数値には行けない可能性が高いという可能性が有りますね。

B君:ところが、最近の情勢分析では、米国の場合、共和党が政権に座ったとしても、2025年で26%削減までは行かなくても、20%削減ぐらいは簡単にやってみせるのではないか、という推定もある。もちろん、シェールガス頼みということなんだが。

A君:EUのCO2排出削減については、2020年までで20%削減が、2030年までだと43%削減になっているのですが、これはすごく意欲的なのか、という議論も一部にはあります。

B君:そうなんだ。それは、43%はEUETS(欧州排出量取引制度)の対象となる部門だけで、残りの部門については、30%削減に留まっている。その理由だけれど、EUETSの市場には、かなり大量の排出権が余っていて、その価格がトンあたり6ユーロ台。

A君:ということは、すでに存在している排出権、ということは、すでに削減されたために存在している排出権を使うのであって、2020年から2030年の間に排出するCO2量を、宣言した量だけ削減するということにはならない。

B君:色々な見解があって、なんとも分からないのだけれど、EUの数値は、他国にショックを与えることは事実だけれど、本当に野心的と言えるのか、なんとか比較をしなければならない。

A君:さて、それなら米国の削減目標も本当に野心的なのだろうか、という検討をしますか。

B君:うーーん。なかなか難しい。しかし、すでに述べたように、20%削減ぐらいは、シェールのお陰で簡単なのかもしれない。野心は残りの6〜8%にある。

A君:シェール革命があるから、日本も大丈夫、などという発言をする人もいるけれど、それは全く分かっていない。日本の天然ガスの価格は、その多くが、石油に連動していて、それこそどうなるか全く分からない上に、日本に輸送するためには、液化しなければならない。そして、液体状態を保つために、冷却した状態で運ばなければならないということがどこまで分かっているのでしょうか。

B君:野心的かどうか、難しいとは言ったが、やはり、多少やってみるか。
 ということになると、本当のところは、一人あたりのCO2排出量のようなものを比較対象にすることと、産業構造の違いを検討し、さらには、国の寒さを比較することが重要だ。

A君:一人あたりのCO2排出量一人あたりのGDPを比較しましょう。
 国としては、アメリカ、英国、ドイツ、フランス、スペイン、ポーランド、日本、中国、韓国、ロシアぐらいで良いですかね。

B君:まあ、そんなところで行こう。

A君:ちょっと間違えたついでに、北朝鮮を入れてしまいましたが、結果は次の表のようになりました。


表 一人あたりのCO2排出量 トン/人 と一人あたりGDP ドル/人

B君:こうしてみると、2010年でドイツと日本はかなり良く似た数値であることが分かる。ここで比較しなければならいことは、すでに示したように、産業構造、気温(寒さ)を考慮しなければならない。産業構造がドイツと日本で比較すれば、まあ、同じようなものかもしれない。それなら、より寒いドイツと日本の排出量が同じだということは、建築物の断熱が悪いということを示しているだろう。

A君:今後の日本の戦略として、ドイツが遅れている自動車の燃費をさらに高めていくといった方針が良いのか、それとも日本が遅れている建築物の断熱を頑張る方が良いのか。

B君:ごく普通に考えると、日本のように、冬がドイツほど寒くはなく、夏が蒸し暑い国では、二重窓への投資効果は低い、とされて来た。しかし、考えてみればすぐに分かるのだけれど、エアコンで冷房暖房を行うとすると、東京あたりなら、12月から3月が、昼間10℃、朝晩が4℃ぐらい。室内の暖房は、22℃ぐらいになっている場合が多いと思うので、室外と室内の温度差が昼間12℃、朝晩が18℃。これに対して、冷房が必要な6月から9月の4ヶ月では、昼間が27℃、朝晩が21℃ぐらい。室内と室外の温度差は、冷房温度を27℃とすると、ほとんどゼロ。要するに、夏の冷房のためのエネルギー消費を考えるのではなく、冬の寒さを断熱によって向上させることを考える方が、余程効率的。他の地域、例えば、福岡を考えると、実は、近畿地方の方が夏は暑かったりする。それでも8月の昼間の気温が33℃。冷房を27℃とすれば、温度差は6℃。冬はもっとも寒い1月2月で、室内を22℃、室外を9℃とすれば、13℃もある。やはり冬の暖房の方が消費電力はかなり大きい。それなら、やはり窓断熱をすべきだということになる。

A君:長い説明だったですが、投資金額を分子に、省エネによって節約できる金額を分母にして、割り算をすれば、何年で元が取れるか、という計算をするのですけれど、エネルギーを大量に使っている米国ですら、EnergyStarのマークがビルにも付いていて、一流企業は、このマークの無いビルには入らないというぐらい、省エネ意識が高まっているらしいですよ。

B君:日本人は奇妙な習性があって、省エネは我慢だと思っているらしい。いや、違うかもしれない。我慢を強制される省エネでないと効果が実感できないという習性なのかもしれない。最新のエアコンに変えると、電力消費量が大幅に低下するのだけれど、古いエアコンを捨てるともったいない、といってどこか別の部屋に移したりする。今や、リサイクルが行われるので、10年近く使えば、それで交換の方が、トータルの環境負荷は下がるのだけれど。

C先生:ちょっと脱線が激しい。次の国際比較に行くべし。主題は米国の目標が野心的かどうかなので。

A君:米国は国土が広くて、寒いところはメチャクチャ寒い。C先生はニューヨーク州に住んでいたんですよね。

C先生:ニューヨークの真北160kmぐらいのところに住んでいた。冬の最低気温はマイナス25℃。1月には、一度も気温がプラスにならなかった。米国の大都市ランキングのベスト5は、ニューヨーク、ロスアンゼルス、シカゴ、ヒューストン、フィラデルフィア。このうち、寒い都市がニューヨーク、シカゴ、フィラデルフィアが。この3都市だけで、人口が1億2千万ぐらいだ。やはり、日本よりは確実に寒い国だろう。

A君:一人あたりのCO2排出量が、米国では17.6トン/人もある。これは、いくら削減率が高くても、意欲的であるとは言えないかもしれない。

B君:米国人は、いくら政府が意欲的な数値を出したとしても、本質的に、「エネルギー消費をするのは文明人の権利である」と思っている。

A君:たしかに。このところ石油価格が低下したもので、大型の車が売れているらしいですね。高額なガソリン税を課すなどということをやったら、政治的に持たない国ですから、米国の車は、そのうち、天然ガス車かもしれませんね。あるいは、カリフォルニア州に頑張って貰わないと。

B君:米国以外の国を眺めてみると、英国の7.9トン/人という値が相当なレベルだ。

A君:これは、労働党の政策の間違いで、1960年台に国有企業を増やして、イギリス病になって、そのおかげで、産業構造が大幅に変わってしまったことの良い副作用として、CO2排出量が減った。現時点でもまだまだ非効率なところが残っているので、例えば、暖房などにエアコンではなくて、石油やガスを使っているので、電力化することによる改善の余地があります。

B君:それを日本としてINDCの中で主張する訳にも行かないだろう。それにしても、英国はなぜ日本に対して、40%削減と書けといった主張をしたのだろう。無理だということが分かっていると思うのだけれど。

A君:英国大使館あたりが、日本の政治状況をしっかりと分析しているような気がしますね。そして、もともと2050年に80%削減すると言ったのは、安倍首相だろ、という確認を迫った。すなわち、今のままだと、生ぬるいINDCを出してくるだろうから、多少圧力を掛けてみようかという話になったのではないですか。

C先生:そろそろ終わりにしよう。米国の数値は予告通りだったけれど、その文章を読んでみると、数値だけでなく、2050年までを見通した、非常に強い意図を感じる文章になっていることが分かる。これがオバマ現政権の意図だということだ。オバマ政権がまだまだ2年弱継続することを考えると、もしも日本の約束草案が生ぬるいものだと、米国からのバッシングを受ける可能性が高い。これは、中国などの国を喜ばせるだけなのではないだろうか。そのあたりまで考慮した上で、約束草案の数値を議論すべきではないだろうか。
 このように考えると、日本として、2025年の米国の削減目標をそのまま取り入れるような削減率は無理なのは無理だろう。しかし、2030年と5年遅れで、米国の数値に近い削減率を示さざるを得ないのではないだろうか。なぜなら、2050年における80%削減を見通すことが、米国のINDCで、半ば義務化されたように思えるからだ。
 2030年に25%削減(2005年比)をグラフにして、米国のものと比較すると、次のようになる。


図 上が米国。下が日本の場合の私案。米国の2025年の削減率に近い25%削減を、2030年にずらしたもの。東日本大震災で、5年間ぐらいの遅れが出たから、という理由を付けることが条件。