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 「地球編」生態系の教科内容は?   06.21.2009
     大学初年度用環境学の教科書



 「地球編」の最後に、生態系の記述を入れることが必須であることは、誰もが認めることである。生物多様性は、今後、地球全体としていかに保全するかが大きな課題になるからである。

 しかし、生態系を学ぶ学問である生態学があるが、その内容はどうも多種多様らしいのだ。

 そこで、今回、数冊の書物を参照しつつ、大学初年度用の環境学という教科が、生態系について、何を教えるべきなのか、その枠組を探ってみたい。


C先生:生物学のある部分を地球編に入れるということは、地球の重要な構成要素である「生態系」というものの仕組みを説明することになる。

A君:「生態系学」という学問は無いですね。そもそも生態系とは何か。

B君:生態系とは、「生物+物理環境」。これを閉じた系として取り扱うこと。

A君:ということは、すでに「地球編」の地学関連項目で「物理環境」を述べたことになっているとすると、生態系を記述するには、主として「生物の集まり」について記述をすれば良いことになる。 それでは、生態学とは何?

B君:生態学の定義は、
生態学キーノート A.Mackenzie/A.S.Ball/S.R.Virdee 岩城英夫訳
ISBN978-4-431-70911-4 ¥3200、シュプリンガー・ジャパン
によれば、「生態学は生物とその環境の相互作用に関する学問である。環境には物理的環境(温度、水分条件など)と生物的環境(ある生物に対して他の生物が及ぼす全影響)とがある。

A君:なるほど。しかし、それって妙ではないですか。生態学は、生態系を取り扱う学問だということになる。

B君:生態系と生態学は極めて関係深いと先ほどの本に書いてある。
「生態系の概念は生態学に深く根ざしている。生態系の考え方が初めて表出されたのは、フォーブスとメービウスによる1877年の著作にさかのぼる。彼らは、生態学研究の単位は、植物、動物およびその物理環境が複雑に絡み合った全体を含むものでなければならない、と述べた。これらの考えに基づいて、1935年にタンズリーは生態系という用語を提唱した。タンズリーの生態系(Ecosystem)は、「一定の空間におけるすべての動物、植物および物理的相互作用を含むもの」、とみなすことができる。研究対象とする群集に対応して、生態系はいかなる大きさのものもありうる。現代の生態学者は、エネルギーの流れ、炭素の流れ、または養分の循環の観点から生態系をとらえる傾向がある」。

A君:となると「生態学=生態系学」なんですか。

B君:別の本、
ゼロからわかる生態学  松田裕之著、ISBN4-320-05619-1
\2200、共立出版
によれば、生態学とは、
M.ベゴンによれば、「生き物の生き方や死に方とそれを取り巻く環境との関係を明らかにする学問である」。しかし、日本生態学会編の「生態学事典」によれば、「個体もしくはそれ以上のレベルでの生命現象に主な関心を寄せる生物学」であるとしている。

A君:生態系の定義が「生物+物理環境」だとすると、生態系の生物パートを学問するのが、生態学だということでしょうか。それだと、生物学者しか生態学に関与できないことになる。

C先生:恐らく、歴史的な違いがあるのかもしれないが、環境学上必要な生態系の知識は、やはり「生物+物理環境」で、その大部分は、生物学的な知識から構成されているように思える。しかし、それ以外の要素を増やさないと、本当の意味での生態学にならないのではないだろうか。

A君:それはそれとして、どんな目次になっているかを検討してみましょうか。色々と、お世話になっている松田先生の本から。

目次:
「ゼロからわかる生態学」松田裕之著、
ISBN4-320-05619-1 \2200、共立出版


第1章 生物がいきるための環境
1.1 生物が必要とする環境条件
1.2 エネルギーの流れと物質循環
1.3 地球環境の長期変動
1.4 個体、個体群、群集の定義
1.5 利用する資源と生活形
1.6 生物相
1.7 種内競争

第2章 成長の限界と個体群変動(個体群生態学)
2.1 適応度と個体間相互作用
2.2 マルサス増殖と密度効果
2.3 密度効果の判定方法
2.4 齢構造とサイズ効果
2.5 生存曲線と世代時間
2.6 生存曲線と平均寿命
2.7 サイズ構造モデル
2.8 密度効果とカオス
2.9 変動環境下の動態

第3章 種間相互作用と群集
3.1 ニッチ(生態的地位)
3.2 種間競争
3.3 競争する2種の共存の仕組み
3.4 空間構造と2種共存
3.5 捕食と寄生
3.6 機能的反応
3.7 限界値定理と最適な餌場滞在時間
3.8 理想自由分布
3.9 消費型競争と「見かけ競争」
3.10 行動変化を通じた相利関係
3.11 左右非対称
3.12 捕食者の共存
3.13 共生と相利

第4章 群集
4.1 群集の種多様度
4.2 群集の種数と面積の関係、環境諸要因との関係
4.3 群集の多様度、食物網、複雑さ
4.4 群集の多様性と安定性
4.5 種多様性の維持機構
4.6 間接効果

第5章 適応進化
5.1 最適採餌行動
5.2 被食回避行動
5.3 最適な卵の大きさ
5.4 親子間コンフリクト
5.5 同型配偶と異型配偶
5.6 性差の起源と性淘汰
5.7 性比の理論
5.8 雌雄同体と性転換
5.9 移動と分散
5.10 一回繁殖と多回繁殖
5.11 縄張り争いと儀式化
5.12 有性生殖

第6章 人間と生態系
6.1 人類の環境への負荷
6.2 人間のもたらした大量絶滅
6.3 個体群管理とその限界
6.4 自然保護の根拠
6.5 管理・保全計画
6.6 生物多様性保全の指針


B君:この本の第0章を読むと、同じ生物でも、植物と動物の研究者は、交流が少なかったと書いてある。それでは、生態学というものが成立しない。

A君:ということは、生態学の本の目次は、誰が書くかによって様々だった、ということでしょうか。

B君:こちらも先ほどできてた本だが、
生態学キーノート A.Mackenzie/A.S.Ball/S.R.Virdee 岩城英夫訳 ISBN978-4-431-70911-4 ¥3200、シュプリンガー・ジャパン

その目次は、ちょっと長すぎるのですべて記述するのは省略したいが、確かに、松田先生の本の目次とはかなり違っている。

C先生:最終的には、日本国内での高校の教科書との対応を取ることになるのだから、先に、高校の教科書における生態系に関わるような部分の目次を、まず検討しよう。

A君:それでは、といっても教科書が手元に無いので、学習参考書で行きます。
シグマベスト 生物T・U 改訂版 
ISBN978-4-578-24115-7  ¥2180

全目次は明らかに生物全部なのですが、そのうち、後半のこのあたり部分から、どうも、生態学に近いようですよ。

第8編 生物の集団

1章 個体群とその維持

1節 生物群集と個体群
1. 環境と生物
 1 環境と生物のはたらきあい
 2 適応
2.個体群とその変動
 1 個体群と生物群集
 2 個体群密度
 3 個体群の成長と密度効果
 4 昆虫の相変異
 5 生存曲線
 6 個体群の年齢構成

2節 個体群の相互作用
1.個体群の相互作用
 1 動物の群れ
 2 縄張り(テリトリー)
 3 順位制
 4 社会性昆虫
2.個体群間の相互作用
 1 異種個体群間の相互作用
 2 競争
 3 捕食−被食
 4 生態的地域(ニッチ)

3節 物質生産と植物群落
1.植物群落の構造と物質生産
 1 植物群落
 2 植物群落の階層構造
 3 生産構造
2.植物群落の種類と水中の生物
 1 陸上の植物群落
 2 生活形
 3 水界群落と水中の生物

4節 生物群落の遷移
1. 植物群落の遷移
 1 遷移
 2 一次遷移
 3 極相林の部分的更新
 4 二次遷移

5節 生態分布
1. 生物群集とその分布
 1 群系と生態分布
 2 植物群系の生態分布
 3 世界の植物群系の分布
2. 日本の植物群系の水平分布と垂直分布 1 日本の植物群系の水平分布
 2 日本の植物群系の垂直分布

2章 生態系とそのはたらき

1節 生態系と物質収支
 1 生態系
 2 生態系の物質収支
2節 物質循環とエネルギーの流れ
 1 生態系内の物質循環
 2 生態系内のエネルギーの流れ
3節 生態系の保全
 1 人間の生活にともなう環境問題
 2 環境の保全と回復


B君:なるほど。確かに、Mackenzieのものよりも松田先生の本の目次に近い。

C先生:先日紹介したブルーバックスの地学の親戚である「新しい高校生物の教科書」ではどうなっている。

A君:
新しい高校生物の教科書 ブルーバックスB1507、
ISBN4-06-257507-8、1200円

目次

第7章 生態系のしくみ
7.1 いろいろな生態系
 1 都会の「自然」
 2 自然は自然に変化する
 3 樹林になれない土地もある
 4 里山の自然
 5 ヒトの活動によって壊される自然
7.2 生物の相互作用
 1 ナノハナとモンシロチョウ
 2 モンシロチョウを襲うものたち
 3 モンシロチョウの糞や死体
 4 世界はつながっている
 5 たがいにかかわりあいながら進化する生物
 6 生産量ピラミッドが教えてくれること
第8章 生物学と地球の未来
8.1 遺伝子操作とヒトの未来
 1 遺伝物質の共通性
 2 遺伝子組換え作物
 3 遺伝子組換え動物
 4 遺伝子治療
8.2 環境保全と地球の未来
 1 環境とは
 2 様々な環境問題
 3 なぜ野生生物を守るのか
 4 ヒトは地球の救世主か?


B君:この本は、生態系のところの記述がやはりかなり奇妙だ。まず、分量が少なすぎる。どうも生態学をきちんと書き込むことができる高校の先生が居ないのかもしれない。それに、環境に関しては、どうも遺伝子組換え作物反対を主張するために話題が選択されている感じだ。

C先生:大学初年度用の環境学の教科書は、もっと中立的なスタンスで書かれていなければならない。この意味で、この本は、参考にならないと結論しよう。

A君:さあ、それでは、やはり高校の教科書に近い参考書の目次を採用することにしますか。
 前回、「地球編」の第1章から第4章までは目次が大体決まった。そこで、今回第5章を追加することにますか。復習のために、まず、第4章までの目次を再録。

環境科学「地球編」目次
 ()内の数字は、上記書籍の節の番号

第1章 太陽系の中の地球
1−1(8−1) 太陽系
1−2(8−2) 惑星のすがた
1−3(8−3) 奇跡の星
1−4(8−4) 太陽のエネルギー

第2章 地球の歴史と生命の進化
2−1(4−2) 地球の歴史:地質時代区分
2−2(5−1) 地球の誕生と生命の進化
2−3(5−2) 生物、陸上へ進出
2−4(5−3) 進化と絶滅

第3章 地球の構造と活動、資源
3−1(1−3) 重力から分かること4:地球の質量
3−2(1−4) 地球の内部に何がある:地磁気の存在
3−3(1−5) より詳しく地球内部を調べる:地殻・マントル、アイソスタシー
3−4(3−3) プレートテクトニクスと大陸移動
3−5(3−2) 活火山の分布:地熱
3−6(2−1) 元素・鉱物・岩石:資源との関係で

第4章 地球の表面でおきている現象
4−1(6−1) 大気
4−2(6−2) 太陽放射と大気
4−3(6−3) 気象現象
4−4(7−1) 海洋



A君:以上が先週までの目次です。これに、今回検討している生態系の目次を加えたいのですが、どうしても細かさが合わないのですが、まあ、その調整は後ほどということで、機械的単純化作業の結果を次ぎに示します。

第5章 生態系と生物多様性

5−1 生態系とはなにか
5−1−1 物理環境と生態系

5−2 個体群とその維持
5−2−1 生物群集と個体群
5−2−2 個体群の相互作用
5−2−3 物質生産と植物群落
5−2−4 生物群落の遷移
5−2−5 生態分布

5−3 生態系とそのはたらき
5−3−1 生態系と物質収支
5−3−2 物質循環とエネルギーの流れ
5−3−3 生態系の保全


B君:どんな記述になるか、やってみないと分からないが、第1章から第4章までの記述によって、生態系の物理的な側面が決まって、そこに、生物の個体群や群集が入るということで生態系になるという流れは悪くない。

C先生:この目次にしたがって、内容を検討するが、それは、次の段階にしよう。
 加えて、ブルーバックスの環境保全の部分、特に、遺伝子組換えを絶対的な悪とするような記述、さらに、松田先生の本にもある化学物質に関する記述など、いささか気になるものがある。そのあたりの検討を次回以降適当な時期にしてみたい。