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塩ビモノマーの発がんリスクありの根拠 02.08.2003 ![]() |
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今月の環境1月22日でご紹介した、塩ビモノマー、ホルムアルデヒドの発がんリスクが「あり」であるという環境省の環境リスク初期評価に関する詳細版である。やっとできた。 このところ本の執筆が最終段階になっていて、また、なぜか4日間連続で、しかも全く異なった題目で講演(「セラミックス産業の国際競争力強化」、「持続型消費」、「化学物質のリスク管理と社会情勢」、「技術者倫理の教育と問題点」)などをやっていたもので、全くの暇無し週であった。そのため、大分時間が経ってしまった。 C先生:今回の話は、結構難しい。そのため、読者各位も、次のURLから、是非資料をダウンロードして、それを参照しながら、本HPの記事を読んでいただきたい。 A君:そのURLです。http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=3877 B君:そこからダウンロードできる資料としては、 A君:まず、(1)本文の説明です。今回の第二次取りまとめで結果の発表があったのは、 B君:これらの第二次取りまとめというからには、第一次取りまとめがあるということか。 A君:平成9年度から12年度にかけて、化学物質の環境リスク初期評価をパイロット事業として実施した、と書いてありますね。そして、その結果は、平成14年1月に公表されているとともに、「化学物質の環境リスク評価 第一巻」という報告書が出ています。 C先生:結構分厚い本で、一応、環境省から貰ってきた。その中身は、まあそのうち相当に暇があるときに報告するか。格段に取り上げなければならないという感触ではないので。 B君:しかし、本当に限られた物質しか調査ができないのだが、どうやってその候補を選択しているのだろうか。 A君:世界で10万種。日本で5万種の物質が流通しているとされていますね。しかし、色々な考え方がありますが、まず、難分解性だと少量の放出であっても環境中に蓄積しかねないですから、これが一つの条件です。それに生物濃縮性があると、ダイオキシンのように底質生物(ゴカイなど)→小魚→中魚→大魚と段々と濃縮されて最後にはヒトに摂取されますから、これも重要。それに慢性毒性が三番目ですね。その物質に急性毒性しかなければ、ある量を摂取しても、それでなんらかの毒性による悪影響がでなければそれでOK。 B君:慢性毒性といっても、要するにすぐには出ないというのが定義だろうから、どのような形で出るか、それが問題になる。 A君:まさにその通りで、微量のヒ素をちょっとずつ与えると、そのうち全身が弱ってきて死に至るというのが慢性毒性です。 B君:発がん性だって慢性毒性の一種で、あるいは、生殖毒性だって、慢性毒性の一種だ。 A君:発がん性がやはり気になるわけです。大分いろいろなことが分かってきて、ある種のがんにかかるかどうか、遺伝子レベルで決まっていたりします。 B君:そういえば、アルコールに弱い遺伝子のタイプの人は、アルツハイマーになりやすいという統計があるそうだ。 C先生:雑談になっているが、その他にも、やはり大量に生産されていることが一つの大きな要素だ。色々と考えてみて、どうも深刻だと思われる順番に検討を行なったというところだろう。健康影響については、前回も検討しているのだが、発がん性については、今回初めて初期リスク評価が行なわれているので、問題のある物質が見つかったということなのかもしれない。それは、一番危なそうな物質から取り掛かるから、というだけのことだが。 A君:本文に今回見つかった環境リスクのありそうな物質がリストアップされています。 B君:Aクラスというのが危ないかもしれないので、詳細に調べようというもののようだ。 健康リスク 生態リスク
B君:そして、今回の話題である発がん性についてだが、 発がん性 A君:以上が本文にある情報です。 B君:ここまでは、特に細かく解説をする必要はなさそう。 A君:それでは、(2)健康リスク初期評価結果一覧(13物質)[PDFファイル 17KB]について見てみましょう。 B君:そのPDFファイルの表に書いてあるは、アクリロニトリルが吸入という暴露経路でラットを実験動物として試験をすると、鼻の細胞に変性が起きるということだが、その毒性が出ない量が、0.77mg/立米。これは気体中の濃度ということになる。 A君:そして、吸入で暴露されるとして、「環境」からだと予測される最大濃度が、2.5μg/立米。「室内」からだと最大濃度が1.9μg/立米ということが分かって、無害な量に対する余裕が、それぞれ31倍、41倍しかないということで、情報の収集に努める必要がある、という判断になっているのです。 B君:31倍も余裕があれば、大丈夫だと思うが。 A君:普通に考えればそうなのですが、リスクは、人によって感受性が大分違いますからね。 C先生:個人の感受性は、このところスペクトルが広がっているとしか考えられない。やはり要監視状態なのかもしれない。 A君:ここで問題になるのは、予測される最大濃度をどうやって求めたかということですね。 B君:環境省は、全国の環境の状態を継続的にモニターしているので、そのいずれかのデータがその値になったということなのだろう。 C先生:そのあたりの詳しい手法になると、これは、そのうち印刷される報告書の原稿を見なければならない。これがそれなんだが。 B君:なるほど。 A君:ちょっと見ますと、アクリロニトリルだけではありませんが、一般環境大気、室内空気、食物、地下水、公共用水域・淡水、公共用水域・海域、底質(淡水)、底質(海水)についてデータを採っているようです。 B君:その表現は一般用語とは言えないな。一般環境大気というのは、道路の脇ではない場所の空気、公共用水域・淡水というのは、川・湖・沼ということだろう。底質(淡水)というのは川底の泥。底質(海水)というのは海底の泥。 A君:アクリロニトリルの空気中の濃度は、262箇所の検査地点で198箇所で検出限界を超えた値が測定されていて、平均値が0.14μg/立米。最大値が2.5μg/立米という値を出した場所の情報は、別の本を見ないと駄目のようですね。 B君:どれどれ。そのデータは、環境庁大気保全局が出している、平成11年度地方公共団体等における有害大気汚染物質モニタリング調査、という報告書にあるのか。 A君:いずれにしても、各地点の測定値から、もっとも濃度の高い地点のデータを選択して、という作業をやっていることになります。 C先生:大体分かったようだ。それでは、塩化ビニルモノマーに行ってくれ。 A君:塩化ビニルですが、やはり同じ報告書の原稿を見ますと、地下水の測定値に最大値があって、それが0.50μg/Lということで、その元データは1999年の要調査項目が出典のようです。 B君:探してみよう。分かったぞ。 A君:大阪府西淀川区というのはどんな場所ですかね。 B君:地図を見ると、大阪湾に新淀川が流れ込むところで、工場地帯のようだ。だから、塩化ビニルモノマーが存在していても不思議ではないと断定するのも難しいが。 C先生:何が原因かという話は、また後でやろう。 A君:そうですね。この0.50μg/Lから、「発がんリスクがある」という判断までどういうロジックが使われているかですね。 B君:地下水中の濃度が分かって、それから体内への暴露量を計算しなければならない。さて、どのぐらい水を飲み、どのぐらい空気を吸うか、また、食物はどのぐらい食べるか。 A君:それは決まりがありまして、水は1日で2L。空気は15立方米。食物は2000gです。それをこの0.50μg/Lに適用するとなると、1日2Lこの地下水を飲むことになります。体重50kgとして、摂取量が0.02μg/kg/day。そして、発がんリスクの表現として、スロープファクターというものを使うのですが、その値には文献値が2種類あって、5.0×10^−2(mg/kg/day)^−1という値と、もう一つは、1.4なのです。要するに、28倍違う値が報告されているのです。 B君:となると、0.02μg/kg/dayという摂取量に対して、1.4という値を使うと、余剰発生率が2.8×10^−5という値。すなわち、10万人に2.8人という値になる。 C先生:新聞報道によれば、10万人に5.6人という倍の値になっている。その説明を頼む。 A君:それは、食品からの摂取を仮定しているのです。実際の測定では、45点の検査をしているのですが、塩化ビニルモノマーは検出されていません。しかし、検出限界が0.0005μg/gと比較的高いのです。だから、もしも若干の塩化ビニルモノマーが入っていても、この検出限界以下だったら、検出できません。最高に安全サイドで評価をするには、食品がこの検出限界ぎりぎりだという仮定を使うことになります。そこで、1日に食べる2000gの食品すべてが、この検出限度ぎりぎりの濃度の塩化ビニルモノマーを含むという仮定で暴露量を計算すると、なんと0.02μg/kg/dayと地下水からの暴露と同量になります。 B君:その事情が、暴露評価の値の表記法、0.02〜<0.040μg/kg/dayとなっている訳だ。それで、最終的な余剰発生率が5.6×10^−5という値になっている。 C先生:そしてこれが新聞報道で使用された値だということになる。ただし、食品にもしも塩化ビニルモノマーが若干でも含まれているのならば、全数から不検出ということは有り得ない。だから、まさに最高の安全サイドの仮定がなされていることを再確認しておくべきだろう。 A君:はい、再確認したいと思います。今回の発表値は、測定値も最大値を採用し、そこの地下水を一生の間、毎日毎日2L飲んで、しかも、スロープファクターとしても、文献上の最大値を用いる、さらに、測定限界が高い場合は、その検出限界ギリギリの食品を毎日毎日2000gずつ食べるというすごい仮定を使って、ありうる最大の余剰発生率を計算していることになります。 C先生:まあ淡々と最大のリスクを計算していると理解すべきだ。 B君:まあ、極めて非現実的な値だから、何を間違っても、この値を超えることは無いだろうという値を求めて公表しているということだ。それが初期リスク評価という意味だ。 C先生:実際の値を議論すること、すなわち「詳細リスク評価」は、今後行なわれるのだろうが、初期リスク評価で、すなわち、このような仮定の元で求まった値が、5.6×10^−5だということは、まあ、かなり安全サイドであるというデータではないだろうか。 A君:もう一つのホルムアルデヒドのケースが環境中だと、18×10^−5という値。室内だとなんと560×10^−5というとんでもない値になっているのですが、室内の濃度は、なんらかの原因がある訳で、新築時といったような場合でしょう。ですから、一時的に濃度が高くても徐々に下がる訳で、まあ、環境からの値を新聞は報道したということになるでしょう。 C先生:塩化ビニルモノマーの話に戻るが、西淀川区の地下水中の濃度であることが分かったとして、果たして、その原因は特定できるだろうか。 A君:場所が特定されれば、それは分かるのではないでしょうか。PRTRのデータが出てくるとかいった状況になると、どの地域の工場から塩化ビニルモノマーが排出されているかが分かることになるかもしれませんから。 B君:待てよ。ちょっと思い出したが、塩化ビニルモノマーというものは、有機塩素化合物が分解しても生成するということだったような。 A君:某氏からの情報では、http://www.oia.or.jp/kankyo/023.htmlにそんなことが記述されているようです。 B君:この話、東大の矢木先生から聞いたような気がするのだが、上のHPにもそう記述されている。有機塩素化合物は、細菌でも分解されるが、ある特殊な細菌だとエチレンやエタンまで分解されるのが、そのような細菌がいない状態だと、塩化ビニルモノマーで止まるということのようだ。 C先生:塩化ビニルモノマーを製造している工場から、多少の塩化ビニルモノマーが出ていても不思議ではないし、機械工場などが以前に有機塩素化合物による土壌汚染を起こしているとしたら、微生物が分解して、塩化ビニルモノマーになっている可能性もある。いずれにしても、そのような地域の地下水だけで生活するのは僅かながらも危険性があるということだろう。実際には、有り得そうも無い生活だが。 質問: 「塩ビモノマーの発がんリスクありの根拠」についてご質問があり,メールをお送りします。 直接先生が書かれた内容についての質問ではなく「MOE(Mergin of Exposure)」についての質問です。 「健康リスク初期評価結果一覧(13物質)」に基き質問します。 例えばアクリロニトリルについてですが, しかし,エチレンオキシドは ということは,エチレンオキシドとほかの物質では,別のファクターの値が異なるということなのでしょうか?
一方、エチレンオキシドの無毒性量は、事故のデータか何かを用いて、ヒトを対象とした値が求められており、それが、0.43mg/m3.それを予測最大値の0.38μg/m3で割ってMOEの数値を出しているようです。 |
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