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  規模の力はもはや古いのでは  07.03.2011

         顧客満足への切り替えを



 日本経済新聞の29日の朝刊、1面の左側にある「新しい日本へ」は「攻めの経営空洞化防ぐ」であった。

その前半の要約は以下のようなものである。

 東レが韓国で炭素繊維の開発・生産に乗り出す。本来、虎の子の技術だが、社長の日覚昭広氏は、「世界の中核拠点に育てる」と宣言した。

 世界全体のGDPに対する日本のGDPは、1995年が最高で、15%程度だった。それが、2030年には5.8%になるとの予測。世界の膨張に日本が取り残される。

 空洞化防止を理由に先端技術を出し惜しめば、成長の機会を失う。

 三菱ケミカルホールディングズの社長 小林喜光氏は、「海外で稼ぎ、果実を国内に再投資して雇用を増やす」と今後の成長の仕組を示す。

 東大准教授の大橋弘(41)は海外で稼ぐための条件を「ワンオブゼムを抜け出すための規模の力」と指摘する。それがブランド認知度を高め、経営を効率化する。



C先生:実は、ここまで読んできて、いささか違和感がでた。たしかに、海外で稼ぐ条件は、そうかもしれない。でも、その競争相手は、韓国や台湾、そして、中国。
 しかし、日本の通った道を、確実に韓国や台湾はたどる。ということは、日本という国が本当に考えるべき対象は、これまで日本の先を行っていた、米国、英国、ドイツ、などの国々で、これらが今どうなっているのかを考えるべきではないのか。

A君:それ以外にも、ヨーロッパの各国もそうですね。しかし、EUがあるだけ、ちょっと違うかもしれない。他のEU国から、安価な労働力がどっと流入したから。

B君:例えばオランダという国がどうなっているのか。オランダのユニリーバが海外で頑張れば、オランダに失業者は居ないのか。ドイツの失業率は何%なのか。

A君:しばしばお世話になるhonkawa氏のHPをご参照してみますか。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3080.html
図面は、このHPをアクセスしてください。

B君:なるほど。オランダは、EUになることによって、実は、失業率を下げていたのだ。それに対して、スウェーデンはひどくなっている。

A君:スウェーデンのボルボも無くなった。いや無くなった訳ではないが、一時、フォード資本になり、そして、今は、中国資本。
 一方、オランダは、現時点では、ニコン、キャノンとともに、世界最高の半導体用のステッパーを作る国。一時期は、ニコン、キャノンを抜いていたのではないか。

C先生:ところで、三菱化学の社長小林氏が主張するように、海外で稼いだお金を日本に還元するということは、本当に可能なのだろうか。
 これまででも、トヨタ、ホンダ、あるいは、パナソニックなども海外で稼ぎその果実を日本に戻そうとしてきたではないか。しかし、日本という場が、果実を戻すのには規制などが多い所になっているので、果実を戻せないのではないか。

A君:法人税が高い、人件費が高い。本当は、そのような国にだれも果実を戻そうとはしないのではないか、ということですね。余程寛容なというか、日本思いの企業経営者を別とすれば。

B君:もともと答がない、あるいは正解のない問題に対して、この日経の記事は、どうも無理やりこれが正解だと押し付けているような感触がする。

C先生:本当は、もっと別のやり方で、日本産業を元気にする方法があるのではないか。そんな気がするのだが。
 そんな思いをもつのも、今回の大震災で、色々な現象が起きている。一つは、ルネサスエレクトロニクス
http://japan.renesas.com/index.jsp
の那珂工場の件があったからだ。

A君:東日本大震災で、ルネサスは、半導体前工程5工場、後工程2工場の生産が停止した。その7工場とは、(前工程)津軽、鶴岡、那珂、高崎、甲斐、(後工程)北津軽、米沢である。
 那珂工場以外は、4月6日までに復帰したが、計画停電への対応で、多くの拠点で休業した。

B君:那珂工場も、6月15日に再開されたが、このブランクは大きな影響を与えた。マイコンの供給が止まって、自動車、家電などの生産量が大幅に低下した。

A君:半導体工場というのは、クリーンルームの塊だし、使っている化学物質も、シランやフォスフィンなど、可燃性や有毒性の面でやっかいな薬品を使っていますから、被害からの復活に相当な時間が掛かったのでしょうね。

B君:いずれにしても、一つの企業の工場が止まると、これほどまでも大きな影響を与えるということは、関連企業は分かっていなかったように思える。

C先生:本当は、各企業がサプライチェーンの管理はやっているはずなのだが、恐らく、様々な下請けがあるので、まあ、大丈夫だと思っていたに違いない。
 しかし、よくよく調べてみると、様々な下請けが使っている部品の供給先を次々と遡って調べてみると、すべてが、ルネサスになっているということが、大震災が起きてみて、はじめて分かったのではないか。

A君:問題は、なぜ、これまでも生産拠点の単一化、巨大化、集中をしなければならないのか、ということですね。それは、上述の大橋准教授の言う、「規模の力」によって生産コストを下げ、そして利潤を上げる。という考え方に従ったものなのでしょう。

B君:ところが、これをいくらやっても、実効は上がらないのだ。なぜならば、最終製品を作る日本企業、あるいは、消費者に商品を販売する日本企業は、部品や材料メーカーの利益や都合を無視して、ギリギリのコストを提示し、一息つく余裕も与えない。そのため、部品や素材を作っているメーカーは、ますます「規模の力」による生産コストの低下を目指す。ところが、そうなると、また値下げの要求が来てしまう。こんな無限のマイナスループにハマっていたし、現在もハマっている。

C先生:以前、Nokiaが世界No.1の携帯電話メーカーであったころ、中国市場などに安価な携帯を提供していたにも関わらず、日本の下請けメーカーに対して、適正な利益を得ることを許容することによって、忠誠心を持たせるという戦法で、戦線を拡大していった。

A君:Nokiaは、その後のスマートフォン戦争に乗り遅れたため、より具体的には、携帯電話用のシンビアンOSにこだわりを持ち過ぎ、AndroidOSへの対応ができなかったため、もはや復活するのも難しいかもしれないが、これがアングロサクソンとは違う北欧の戦略だと感心させる戦い方を示していましたね。

C先生:もうひとつ、東日本大震災で、不足になった商品がある。それが、古紙配合のOA紙。

A君:ええ聞きました。よくよく中身を聞いて驚いたのですが、古紙が足らなかった訳ではなくて、古紙を漂白するときに使う、過酸化水素水が足らなかった。

B君:このような汎用の化学品は、価格が安いし、しかも、多くの場合、製造設備が過剰なので、巨大化して、薄い利益を稼ぐという対応にならざるを得ない。
 ある人の見解では、国内の過酸化水素市場は、需要16万トンに対して、名目生産能力は24万トンに達している。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/study/2246/1036501380/l10

A君:その人の書いた4月1日の記事が、化学工業日報の、「東日本大震災 過酸化水素 逼迫深刻 設備能力の75%が停止」というもの。
 問題は、計画停電だった。国内最大の年間10万4千トンの三菱ガス化学の鹿島工場が、電力供給不足と、鹿島コンビナートが被災して、原材料の調達が困難になった。

B君:これまでも本HPで議論してきたように、「単一・巨大」によって、競争力を付けるとい考え方だけでは、今後の日本産業はときどきダメージを受ける可能性がある。「分散・冗長」を加味しつつ、それでも、競争力を付けるという新たな戦略が必要になっている。

A君:そのためには、サプライチェーン全体に、多少の余力を持たせるといった考え方を導入しつつ、それでも競争力があるという新たなビジネスモデルを追求しなければならない。特に、最終製品を作る企業がこれを考えるべきですね。とうことは、価格競争力だけでなく、それ以外の競争力を持たせないと。

B君:一時期、かなり高く評価されていたトヨタのカンバン方式も、在庫を持たないから合理的だと言われたが、よくよく考えてみると、価格競争力だけを考えた極めて我侭な方法だった。

A君:トヨタがかなりの在庫を持っていれば、ルネサスの影響も避けられたでしょうね。

B君:どうもトヨタがもっとも被害を受けたようだ。トヨタも基本思想を変える時期だと思う。価格競争力以外の競争力強化を目指して。

A君:カンバン方式というよりも、その中に含まれるジャストインタイム方式が、もっとも我侭だったかもしれませんね。必要なとき丁度に、下請けからの部品が届くというもの。

B君:これを実現するためには、トラックは余裕をもって現地を出発し、配送先の近くのどこかで時間調整をしなければならない。場合によっては、路上駐車をすることになって、交通渋滞を起こしかねない。

A君:大型トレーラーが海上コンテナを搭載しながら、待ち行列をつくって交通渋滞を起こすということは、東京の湾岸線ではしばしばあるようですね。

B君:トヨタの場合には、自らの都市である豊田市でのことなので、誰も文句は言わないし、また文句も言えないが、それを素晴らしい合理化だとして、無条件に真似をすると、そんなことになりかねない。

C先生:最終製品を作る、あるいは、販売する流通業が、もう少々余裕を製造側に持たせるという態度にならないと、何かあったときに、また、大きな影響がでるという事態になるだろう。
 しかし、今回の事態で、流通側には、余り被害はなかっただろうから、痛みを感じていないだろう。家電の巨大流通業も、そろそろ、単なる価格競争ではなく、まともな手間の掛かる付加価値で勝負をして欲しいものだ。例えば、町田の「でんかのヤマグチ」のようなサービスが実際に成立している。

 単行書「でんかのヤマグチさんが「安売り」をやめたワケ」山口勉著、宝島社

A君:この店は、実は、あるメーカーのフランチャイズ店なのですが、地元の顧客が持っている電化製品を、他社製品にいたるまで、そのすべて把握しているとか。リコールされると、その製品をもっている顧客にチャンと連絡をする。

B君:単なる価格勝負ではなくて、「顧客感動」で売上を伸ばす。このような方針の国にならないと、日本の将来は難しいような気がする。

A君:それには、顧客側が変わらなければならないとうこともあるのでしょう。

B君:ある種のこだわりを分かってくれる顧客にのみ売る。これができないとどうしようもない、ということか。
 過酸化水素の場合のように、品質が一定のものを売る場合には難しい。サービスの後付も難しいなあ。

C先生:話を「顧客感動」という言葉で、繋いで飛躍させることにする。
 東北の復興に話。いささか発言するのがためらわれるのだが、なぜ、宮城県などの自治体の復興案が高台型になっているのか。

A君:最近、色々とと考えて、その理由が分かるような気がしてきたのですよ。復興の顧客が、住民ではないということですよね。

B君:住民は、特に漁民は、高台などには住めないと言っている。

A君:しかし、県側としては、高台に拘る。さて、その理由はなぜ、ということですね。

B君:東北地方か。ここは、高度成長時代に農業から出稼ぎ、あるいは、土建業への転換という産業構造の変化の中心的な役割を果たして来た地域であった。

A君:民主党政権になって、脱コンクリートの政策が掲げられた。脱ダムはすでに、日本に適地が存在していないので、当然の流れではあった。そして、高速道路・新幹線も、今後本当に必要な地域は残り少ないほどに整備が進んできた。

B君:そうか。東北地方の土建業にとって、今回の東日本大震災からの復興は、ある意味で、自らの活力を発揮するラストチャンスなのではないか。
 これはこれで意味が無いとは言えない。東北地方の土建業にも頑張ってもらうのは当然必須の事態である。

A君:ただ、そのために何を犠牲にするのか。このトレードオフについては、しっかりと検証をして欲しいと思うのですね。土建業だけが「顧客感動」するのはやはりおかしい。

B君:高台に移住という基本方針を作れば、山を切り開くという公共工事で、地元の土木業に発注が行く。そして、高台には、通常の家屋が建設されるから、地元の建設業に仕事が流れる。

A君:ところが、このHPでこれまで提案してきたような「津波受け流し型台地と中層住宅」では、
http://www.yasuienv.net/ShipTown.htm
http://www.yasuienv.net/VGSAgriFish.htm
都市のディベロッパーに発注が行ってしまう。

B君:しかし、過去の何回かの実例を振り返れば、東北地方には、津波が一定の周期で襲ってくることは事実である。
 そして、高台に移転しても、50年も経つと、また海岸に戻ってしまう。そして、津波に流される。

A君:貞観地震869年7月9日。
次の慶長との間にも何回かあったらしい。
慶長三陸地震1611年12月2日。
明治三陸地震1896年6月15日。
昭和三陸地震1933年3月3日。

B君:そのような高台移住では、その地域を誇りに思うような「まちづくり」にはならない。「感動する顧客」は、住民であるべき。住民の「顧客感動」を得られないような自治体のプランは、やはりおかしい。

C先生:やはり、これもすでに述べていることだが、40歳未満の住民が、どのようなまちづくりをするのか、それを決める。そして、住民自らが感動をできるようなプランを実現する。
 住民の要望によって、県や自治体は、いくつかのアイディアを並列的に出す。
 こんなやり方が望ましい。やはり、2050年程度まで生きている人が未来を決めないと。ただし、2050年には、現在の年金制度を維持しようとすれば、定年は78歳。