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  2035年のエネルギー予測
    08.05.2012
       国際エネルギー機関 IEAのWorld Energy Outlook2011



 IEAという組織がある。国際エネルギー機関と呼ばれるが、国連の組織ではなく、OECD諸国(28ヶ国)の組織である。

 いくつもの報告書が出ているが、基本的に有料である。個人的にもっとも重要だと思う報告書が、World Energy Outlook(WEO)である。将来のエネルギー需給の見通しを語っているもので、これも有料であるがExecutive Summaryは、Webページで閲覧は可能である。

 現時点、昨年の11月に発行されたWEO2011が最新で、2012版は秋に出版されることだろう。

 しばらく、内部被曝に関するデマなどへの対応をするのが精一杯で、地球レベルの話を整理し記述する暇が無かった。

 ところが、ある出版社から、ローマ・クラブの「成長の限界」のようなスタンスで、現在から未来を見通したような本を書けと言われて、そんなものは一人では書けない、複数人の意見を聴取して、なんとか書くという宣言をしたため、色々と世界の情勢を調べる必要性がでてきた。これが夏休みの宿題になっている。といっても、本当の休みは取らない予定だが。

 その一部として、今回は、WEO2011の概要を記述してみたい。

 ときにIEAは、一部の人々によって、先進国の経済優先の政策を引っ張っている原発推進団体だと批判されているが、福島原発事故以来、多少の変化が見られるようだ。

 低原子力シナリオというものが検討されている。次の文書のFigure 12.3。
http://www.worldenergyoutlook.org/media/weowebsite/2011/key_graphs.pdf
 これは、OECD諸国の一部では、原発の新設が無く、耐用年数とともに廃炉になるというシナリオである。それでも、中国など・韓国・ロシアなどは原発建設を継続する政策を維持している。そのため、2035年になっても、原発はかなりの国で残っている。


 今回の内容をまとめると、以下のようになる。

◆大きな結論:すぐに舵を切らないと、行く先は変わらない=すでに、気候変動を2℃以下に抑えるシナリオの達成は無理。

◆各国政府が自発的に掲げている目標を達成する「新政策シナリオ」が頼りであるが、3.5℃の気温上昇があり得る。

◆石油需要の増加は、途上国での輸送需要が最大要因。生産地が限られるので、輸送のリスクが大きい。

◆天然ガスは黄金期。しかし、天然ガスに切り替えただけでは、気候変動の防止は無理。

◆再生可能エネルギーが表舞台へ。しかし、コスト補填の補助金が不可欠で、国家財政への大きな負担になる(増税ということ)。

◆これまで原子力に大きく依存するシナリオを持っていた国(まさしく日本)に深刻な影響。

結論:
◆読者の皆さんには、エネルギー感覚というものを身に着けて、将来エネルギー戦略を語れるようになって貰いたい。




C先生:IEAがどうやってこのような方法論で予測をやっているのか分からないが、この予測にも不確実性があることは事実。不確実性の大部分は、投機的な資金によるかもしれない。投機資金が大きく動いたり、逆に、リーマンショックのようなことが起きると、予測は当たらない。

A君:未来予測に不確実性があるのは、どうしても仕方がないことですね。しかし、未来予測をしないで、すなわち、先を全く見ないで国家戦略や企業戦略を作るのはあり得ませんから、ある程度の不確実性があったとしても、それを前提として活用することでしょう。

B君:予備知識も多少必要で、それに類することとして、まず、ここで出てくる3つのシナリオについて。

図 3つのシナリオ。

A君:450シナリオとは、温室効果ガスの大気中濃度を450ppm以下にしようというもので、これが実現できれば、温暖化が起きたとしても2℃程度だと予測されているもの。

B君:その2℃にも勿論不確実性がある。気候感度と呼ばれるものがそれで、濃度が450ppmに保たれたとしても、2℃以下になるとは限らないし、450ppmを超したとしても、2℃以上になるとも限らない。

C先生:このあたりは、地球の全部を人類は知ることができないので、仕方がないことだ。未来の予測が不確実だからといって、全く未来を見ないことによるリスクを全部受け入れるのか。やはり、不確実性があっても、予測値として考慮するのか。その選択しかない。

A君:新政策シナリオとは、COP15が行われたコペンハーゲンで合意され、各国が自主的に対策を考えて、それを登録した。このシナリオが実現すれば、温度上昇は3.5℃程度ではないか、と考えられる。

B君:そして、現行政策シナリオ。今の政策を継続すれば、6℃といった温度上昇が見込まれてしまう。これはいくら不確実性が有るとは言っても、危険水域を超していると思われるので、なんとしてでも、避けるべき状況ではないか。

A君:日本では温暖化懐疑論がありましたが、どのぐらい温度が上昇するか、気候がどのぐらい変わるのか、程度の差はあり得るのですが、このままであれば、なんらかの気候変動が進行することについて、反対をしている人は世界的にみてかなり少数派。

B君:色々な不確実性はある上で判断をする。これが必要な態度。

C先生:そして、これがIEAのWEI2011の結論だ。すでに、450シナリオは達成不可能と断定している。となると、なんとか削減策を続けつつ、気候変動に対しては、いわゆるアダプテーション。これは適応策と訳されるが、台風の大型化に備えて、海岸の防波堤を嵩上げしたり、河川の堤防を補強したり。あるいは、地域によって育成する農作物を変えたりといった工夫によってなんとか、対応をしなければならない。

図 World Energy Outlook 2011の概要

A君:短期的には、政情不安や経済不安定などがあるので、多少の影響があっても、長期的な動向は変わらない。

図 短期、長期の動向

B君:具体的には、リビアの革命があったが、この国での石油生産が戻るかどうか。ユーロを中心とした経済の不安定さが、エネルギーへの投資を鈍らせて、その影響がでないかどうか、ということだろう。

A君:まあ、そんなことがあっても、エネルギーというものは、生活の基盤なので、大きな傾向が影響を受けるという程のものではない。こんな結論でしょうか。

B君:次に行く。すでに説明したが、450シナリオはすでに実現不可能になっている。その状況をまとめると、このようなものになる。特に、もしもこれから無理やりに450シナリオに乗せようとしても、すぐにやれば別なのだが、後追いでやると経済的な悪影響が大きすぎる。

図 450シナリオの実現性

A君:450シナリオは現実的などうかということよりも、影響を最小限に抑えるためのシナリオだったということだ。

B君:実現できるとは誰も思っていないというシナリオだったとも言える。

A君:それでは次に行きます。石油については、途上国における運輸用の需要の増大が最大の問題。不足する石油を補うのが、天然ガス液、タイトオイル、バイオ燃料が候補。天然ガス液は、天然ガスを化学結合させて液状にしたもの。タイトオイルとは、頁岩などに閉じ込められた油、そして、バイオ燃料はバイオエタノール。

図 運輸用の需要

B君:超長期的な動向は後で議論することになると思うけれど、途上国に普及する車は、まずは、通常のガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車だと思われる。

A君:となると、それほど燃費を考えて作られた車ではない訳で、普及した分だけ、石油消費が比例的に増えることになりますね。となると、石油は足らないという状況になるかもしれませんね。価格は上がるでしょう。しかし、燃費の良いクルマが普及すると、日本の現状のように、ガソリンスタンドが潰れる状況になるかもしれませんが。

B君:それでは次。天然ガスは黄金期を迎える。そして、現在の石炭と同程度の使用量になるが、その多くは中国で使用される。シェールガスも増えるものの、1/5程度だろう。

図 天然ガスは黄金期

A君:天然ガスは、シェールガスを含めて、黄金期を迎えるのは確実でしょう。このシェールガス、環境面で地下水汚染などを引き起こす可能性が指摘されていますが、かなり深いところでの掘削なので、大丈夫という説もあるようです。

B君:シェールガスは、これまでの石油の生産に付随する天然ガスとは違うので、その産地がこれまでの産地と違うということがメリットの一つ。

A君:次の図です。再生可能エネルギーは、どうしたってFITを含めて高額買取の補助金で動くだろう。しかも、継続的な支援策が必須で、国家財政の面からは大変な状況になるだろう。さらに、不安定な電力を支える送電ネットワークへの追加投資が重要で、その金額は相当なものになる。

図 再生可能エネルギーが活躍

B君:やはり、ある意味の贅沢品が再生可能エネルギー。しかし、将来の本命であることも、これまた事実。

A君:画期的な再生可能エネルギーというものが開発されれえば良いのですが。その候補としては、是非とも、海洋エネルギーを開発したいところなのですが、まだまだ実用化には遠いとしか言えないですね。

B君:次に行く。石炭はどうなるのか。もしも、現在の政策が続けば、石炭がもっとも経済的なので、これを使う。しかし、気候変動を避けようとする動きがあれば、10年後ぐらいに横這いになる。いずれにしても、中国が石炭の半分を使う。そして中国への輸出国は潤う。しかし、中国が方針を変えれば、中国が輸出国になる可能性もある。中国の人口は減るが、人口が増えるインドは石炭の大量使用国になるだろう。

図 石炭の未来は?

A君:石炭は、実に相当な埋蔵量がありますね。現在のコストで採掘できるというのが可採埋蔵量の定義ですが、石炭の場合には、これがまだ相当あるのではないですか。

B君:石炭は枯渇しないのか、と言われると、露天掘りならば比較的安全なので掘削ができるが、坑道掘りだとどうしても危険性が高い。そのため、米国のように、極めて高給を支払わないと炭鉱夫の雇用が確保できない。そのため、将来は、コスト的に掘れなくなるのではないか、と想像している。

A君:となると、人件費の安い途上国であるうちは石炭が掘れるが、先進国になると難しい。中国も先進国になれば、石炭は残る。

B君:もう一つは、世界炭素税ができれば、どの国も石炭依存はできなくなる。その実現だが2100年まで無理かも。、もっとも2100年を超すと人口もかなり減り始めるので、石炭に依存しないで、より安全で、かつ、安価になっている再生エネルギーに依存するという形態もあるのかもしれない。

A君:さて、次です。CO2排出が増えすぎたとき、炭素回収・貯留を行うか。できれば、効率を上げたい。しかし、古い発電所の改良は効果的ではない。新設の発電所を初めから高効率化することが重要。現時点であれば、コンバインドサイクルといった技術を用いることが重要。いずれにしても、2035年ぐらいから、CCSが導入されることだろう。

図 CCSは?

B君:次に行く。原子力の見通しだが、現状、中国、インド、ロシア、韓国などは方針を変えていないが、他のOECD諸国は、方針を変える可能性があることを想定している。ただし、もしもそれが起きれば、石炭への需要が2倍になり、天然ガスへの需要も1.7倍になる。そのため、かつて原子力依存シナリオを書いてきた国への影響は大きいだろう。日本はまさしく、そんな国。

図 原子力の見通し?

A君:どうもOECD諸国は原子力から離脱するというシナリオを書いているようにも見えますね。

B君:しかし、フランスはどうするのだろう。フランスが離脱すると、欧州全体の電力網が成立しなくなる可能性があるので。

A君:それでは、最後のリストです。世界全体に電力を行き渡らせることが重要だが、そのために必要な費用はそれほど大きくはない。途上国がガソリン価格の補助をしている金額が4000億ドルにおよぶことを考えたら、かなり少ない。
 とにかく現在、世界で13億人に電力が届いていない。それどころか、27億人が相変わらず薪を使って調理をしているが、その煙によって、寿命を短くしている。

図 全ての人にエネルギーを

C先生:これで結論を一通り見ることができた。もっとも、この議論を読んでくれた人に疑問が湧いているのではないだろうか。石油の枯渇が議論されていないのではないか、という疑問だ。

A君:こんな図があります。これはIEAのものではないのですが、これまで採掘した石油の量は、今後、採掘の可能性がある石油の絶対量に比べれば少ないということを示しています。


図 石油の可採埋蔵量と価格との関係

B君:要するに、価格が高くなれば、採算があうようになって、使える資源が増える。オイル・シェールクラスになると、これまで使ってきた石油の5倍ぐらある。

A君:同じ事は天然ガスについても言えて、なかなか本当の意味で枯渇はしない。

B君:これまで歴史上枯渇した資源というと、ナウルという国のグアナ(肥料)が有名だが、それは、この国という狭い範囲での枯渇だということと、海鳥が持ち込んだ魚の骨などが原料なので、地表に存在していたという事情による特殊な枯渇の例だと考えれば良い。

A君:あらゆる資源について、同じようなことが言えますね。採算が合うと採掘される。銅の場合、露天掘りだと品位0.5%以下でも採掘される。となると、大量の不要物が掘削されて出てくる。この影響は、やはり無視はできない。

C先生:加えるべき議論はなんだろう。自動車の普及の図がIEAによって作り替えれれたので、それを示そうか。IEAは様々な図を書いてくれるので、それを探すと様々なことが分かる。これが世界の常識だというものなのだ。

A君:これですか。この図は、日本の自動車メーカーが見たら、大反論をするのではないでしょうか。


図 2050年に20億台になる自動車とその駆動方式

B君:しかし、これが真実。2050年にも、50%ぐらいプラグインハイブリッド+ハイブリッド。電気自動車が25%。燃料電池車とガソリンが25%。ディーゼル車は徐々に消滅していく。

C先生:そろそろ結論に行くか。日本では今、原子力の割合の国民的議論というものが行われている。しかし、どうも、判断の根拠をしっかりもって議論をしているとも思えない。エネルギーの選択を、直感と肌感覚だけで決めるのは余りにも乱暴だ。

A君:肌感覚に合わないという感覚そのものは重要だと思うのですが、それだけで決定ができるようなものではないですね。エネルギーは必需品ですが、中でも絶対的な必需品になってしまったのが電気というもの。

B君:しばしば我々も言っているが、人類最初のイノベーションが火を使い始めたこと。そして、人類最大のイノベーションが電気を使い始めたこと。いずれもエネルギーなのだ。

A君:日常生活に必要不可欠なのは勿論のこと、気候変動対策の鍵も電気が握っている。どのように電気を作って、それをどのように効率的に使うのか、これが環境問題解決の最大の検討課題です。

C先生:エネルギーというと、その実態をキチンと説明できるようになるには、相当の知識を必要とする。最近、大学受験に無いからということで物理を勉強しないまま大人になり、そして、場合によるとそのまま一生を終わる人が多いのだが、これは大変に残念なことだ。
 知識を持つということは、文字によって何かを理解することではない。肌感覚ではないかもしれないが、エネルギーという目に見えないものの存在を目に見えるように思えたり、また、感じることができるようになることなのだ。
 是非とも、エネルギー感覚を身に着けてみていただきたい。