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   WHOの世界健康報告  05.03.2003



 先日、さる研究会で国立環境研の新田裕史氏の疫学についての講演を聞いた。これが二回目。環境要因がどのぐらい健康に影響しているか。この問題を正確に解釈することの難しさを再度実感した。

 そこで、紹介されたものに、WHOの世界健康報告書からのデータがあった、2002年版がこの2月ぐらいに公表されている。なかなか意味深い内容のようだったので、ここで紹介してみたい。かなり加工を要するデータなので、ここで示すデータもまあ正しいとは思うものの、もしも引用される場合には、元データから再確認をして欲しい。


C先生:ヒトの命がどのような原因で失われるか、という話を確実に把握することは極めて難しい。今話題のSARSにしても、絶対確実な診断を下すのは難しいだろう。

A君:それにしても、SARSは予想以上の広がりですね。

B君:適当な強さのウイルスなのだろう。適当に感染させ、適当に死者がでる。だから、広まると同時に、ニュース性も高い。

C先生:やたら醒めた見方をすると、感染症の原因である細菌やウイルスは、余りにも強烈だと宿主が死んでしまうので、余り広がらない。エボラ出血熱のようなものはその例かもしれない。

A君:SARSについての情報は、このURLが良いようですが、やはりWHOのものです。http://www.who.int/csr/sars/en/

B君:WHO(World Health Organization)は国際機関でどうも国連の特別機関らしい。全体の本部はジュネーブ、日本での本拠地は神戸。

A君:そして、そこから各種報告書がでていますが、今回取り上げるものは、World Health Reportsなるもの。
 Every year the World Health Report takes a new and expert look at global health, focusing on a specific theme, while assessing the current global situation. Using the latest data gathered and validated by WHO, each report paints a picture of the changing world of health and shows how, if recent lessons are understood and heeded, unprecedented health gains can be achieved.
 http://www.who.int/whr/en/ ここからダウンロードが可能です。

B君:今回は、Reducing Risks, Promoting Healthy Lifeなる言葉が表紙に書かれている。「リスクを減らし、健康な生活へ」ぐらいの訳で良いだろうか。

A君:この世界健康報告ですが、当然、感染症なども取り上げられているのですが、本日、取り上げるのは、その中身の20分の1ぐらい。リスクファクターについての評価。付録の表が多数あるが、付表13だけ。

B君:それ以外の感染症による死者の統計などはあるのだが、その部分は取り上げない。といっても、ちょっとだけ行くか。

以下、病名、それによる余命の損失(障害による補正付)の%

  付表3より
いくつかの原因   世界全体 
HIV/エイズ      6.0%
下痢性の疾病     4.3%
マラリア         2.9%
肺炎など        6.2%
分娩時         6.7%
栄養失調        2.2%
がん全体        5.2%
 最大は肺がんで   0.8%
精神病/神経障害 13.0%
心血管の疾患     9.8%
閉塞性肺疾患     2.0%
先天的障害      1.9%
交通事故        2.6%
その他の事故      3.1%
自殺           1.4%
暴力           1.4%
戦争           0.6%


C先生:障害補正が付いているので、必ずしも死による損失余命だけを勘定しているのではないことに注意。

A君:この健康情報ですが、すべての国を対象にした調査ではあるのですが、世界を14地域に分けて、そして、表になっています。その説明がまず必要です。次の図のように、子供の死亡率と大人の死亡率で世界を分けています。


      図1  死亡率によって地域を分類している

A君:Aが子供も大人も死亡率が非常に低い地域。Eがそれとは逆に、子供の死亡率が高く、大人は非常に高い地域。
 日本の場合には、PW(西部太平洋地域)に属します。この地域は、大人も子供も死亡率が非常に低い地域と、両方が低い地域の2種類があります。PWR−Aが非常に低い地域で、PWR−Bが低い地域でして、PWR−Aには以下のような国が属しています。PWR−Aに属する国: 日本、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、ブルネイ

B君:PWR−Aに意外なことには韓国が入っていない。この地域はPWR−Aに属する以外のすべての国がBランクなので、韓国とモンゴルが同じB。国の差は大きいと思うのだが。

C先生:韓国の平均寿命は男71.2歳、女78.7歳、とまだまだ短い。男女差が7.2年と非常に大きいのも特徴。恐らく、男は酒の飲みすぎで寿命が短い。

A君:男女差で言えば、ロシアがすごい。13.5年も違う。これも多分、男のウォッカの飲みすぎが原因。

C先生:国別の話など、興味深い話があるが、それはまたの機会に譲ろう。

A君:ということで、本日の表は、これです。日常的なリスクによる損失余命の比較。世界全体、日本(西太平洋)、北米、ヨーロッパの値が載っています。


     表1 日常的なリスクによる損失余命(LLY:年)
        「日本+」とは、日本が8割を占めるが、他の2割はオーストラリア、ニュージーランドなど。
        LLYは、Loss of Life Yearsで損失余命。その意味は、
        あるリスクが無くなったとしたとき、各人が期待できる寿命の増加量。
        たばこが無くなると、日本人の寿命は6年も延びる。

B君:さてどう読むかだが。まず、色が付いているので明らかなのだが、色付きのセルの数字は、世界全体と先進国が大きく違うものだ。最初が栄養障害で、世界全体でみたとき体重が少なすぎることが損失余命の最大の原因。この事実をどう見るか。

C先生:こんなところに、環境問題の最大の課題は「貧困の撲滅」だという根拠がある。

A君:鉄欠乏による貧血は、先進国にも共通で見られますね。勿論、量的には少ないですが。

B君:亜鉛欠乏というのが、こんなにも世界的な問題だとは思わなかった。日本でも亜鉛欠乏はあるが、恐らく、命にかかわるようなものではないのだろう。最近、偏食の若者は亜鉛不足が多くて、味覚異常がある言われているが。

A君:亜鉛は必須元素の一種。一日の必須量は男性12mg、女性10mgだけど、日本人の食事では6〜9mgしかとれていないらしい。

B君:ちなみに亜鉛は、過剰摂取も駄目で、1日の許容上限は30mg。

A君:カキ(牡蠣)が大量の亜鉛を含んでいる。一つ食べれば、一日分らしい。そのほか、海産物・海藻類なども良さそう。お茶にも含まれているようで。

B君:水道水の規制値は1mg/Lだ。いくら飲んでも、亜鉛供給用にはならないかもしれないが。

C先生:途上国の亜鉛不足は、それによってどうも下痢とかマラリヤに掛かりやすくなることが問題らしい。

A君:表に戻りますが、危険な性交渉というもののリスクが非常に多きのは驚くべきことですね。

B君:理由は、HIV/エイズ。

A君:ここが本当の環境問題だけれど、不衛生な水による損失余命も非常に大きい。

B君:しかし、先進国でも完全にゼロではないところは、ヒ素、鉛、トリハロメタンといったところが原因か。

A君:0.03年というと、10日ぐらい。これはかなり大きいような気がしますね。ヒ素、鉛、トリハロメタンを足しても、そこまでは行かないのでは。

C先生:説明によれば、不衛生な水による問題は、下痢だとしている。ということは、むしろ殺菌不十分な水と読むべきではないか。

A君:大気汚染は、世界平均と先進国が余り違わないですね。

C先生:どうも原因物質は粒子状物質のようだ。PMだ。

B君:日本が多くて、ヨーロッパが少ないということは、ディーゼル由来か。

A君:それにしては、絶対値が大きすぎるように思えますね。

C先生:PMの起源は、ディーゼルだけではない。報告書全体をさらに検討する必要があるだろう。

A君:煙による室内汚染は、まさに、「いろり(囲炉裏)」。先進国はほぼゼロ。

B君:鉛暴露は、水道の問題以外の鉛。多くの場合には、塗料に使われていた鉛と、ガソリン添加物中の四エチル鉛。先進国は規制されているが。

C先生:こうしてみると、環境問題が主として途上国の問題になりつつあることが分かってくる。

A君:高血圧などの生活習慣病による損失は、途上国と先進国とでは余り変わらないですね。

B君:職業上のリスクは余り大きくない。怪我が途上国でかなり大きいが。

C先生:発がん物質も、職業的なリスクの方が勿論大きい。

A君:本日のまとめという訳ではないのですが、表1を図の形にしたものを図1に示します。


  図2  世界、日本、北米、ヨーロッパ地域の損失余命(×100)の図示 
       世界レベルでは、低体重、危険な性交渉が大きなリスクをもたらしているが、先進国では、
       たばこの影響が非常に目立つ。それ以外は生活習慣病であって、環境要因、職業要因はかなり低い。

C先生:世界の状況、そのなかでの日本の状況を理解することが、未来のあるべき姿を議論するときに必須だ。