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  WHOの健康寿命  05.18.2003



 先々週、WHOのWorld Health Reportにおける環境リスクのデータについて説明を行なった。当然ながら、このレポートは非常に多くのデータを含んでいる。今回のHPはその続きである。

 平均寿命をめぐる話である。今回のWHOの報告には、単なる平均寿命ではなくて、健康寿命も掲載されている。どのようにこの数値を読むべきか。


C先生:日本のような長寿国では、単に長生きしても仕方がない、という意見がそろそろ一般的になってきた。元気で健康に長生きしない限り意味が無いということだ。

A君:それはそうでしょう。脳の寿命は、どうも肉体寿命よりも短いような気がします。

B君:肉体の寿命は恐らく120年ぐらいではないか、というのがほぼ合意されている。120歳以上生きるのは、極めて難しいということだ。

A君:一方、脳の寿命については、余り定説はないのですが、個人的には、100歳ぐらい。要するに100歳を超えても、脳が健康に動作するのは極めて希ではないか、と思うのです。

C先生:肉体の寿命が120年として、その半分の60年ぐらいのところで、各種の劣化が始まる。特に、免疫システムが劣化し、さらには、人生のそれまでのの様々な負の経験でDNAに多数の傷が付いていることが、発がんという形態をとるようになる。発がんの確率は、60歳ぐらいで確実に高くなる。

A君:脳の寿命が100年だとすると、やはり50年ぐらいから、ある種の劣化が始まることになるのですが。

C先生:やはりそんなもののような気がする。人の名前が出てこないことは、我々世代のほぼ共通の現象だ。なんとなく、脳みその中のヒラメキのような活動に勢いが無くなったような気がする。しばらく使わない言葉が出なくなるので、執筆の勢いもなんとなくギクシャクしてくる。

A君:脳を含めて、人間が健康で生存できることに意味があるという考え方から、まず、健康寿命という考え方と、DALYという考え方が生れたのでしょうか。

B君:DALYというのは、Disability Adjusted Life Yearsのことで、生きていても寝たきりでは、1年を健康に生きたことと比べると、例えば、0.5年分しか生きていないと考えて、0.5年分の損失が起きたと考える。

C先生:今回のWHO世界健康報告では、どんなデータが出されているか、見てみよう。まず、DALYから。

A君:様々な病気について、求められたDALYが次の表のようになっています。



表1: 世界、北米、EU、日本+、アフリカのDALY(Disability Adjusted Loss of Life Years)
日本+とは、日本に加え、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールといった国
 この表の数値の絶対値は、いささか怪しい。日本の全がんの数値から見ると、
 2倍〜2.5倍ぐらい大きすぎるような気がする。

B君:精神病が以上に大きいDALYになっているような気がする。北米のように、42.2年もDALYがあったら大変なんだけど。

A君:さらにHIV/エイズのDALYがアフリカでとは言え、155年というのはかなり妙ですね。

B君:マラリアの50年だっておかしい。

C先生:この表がWHOの世界健康報告にそのまま出ている訳ではない。ある処理をしてこの値を出している。そのやり方が正しいか正しくないか、少々疑問あり。

A君:相対的な数値はまあ信頼できるのでしょう。

C先生:この話は、誰か専門家に聞いてみよう。宿題にする。

A君:ということで、相対値で議論しましょう。まず、途上国での結核、HIV、マラリア、肺炎、分娩のリスクがやはり大きい。それに事故も大きい。

B君:先進国が多いというものは、がんがやや多いのと、関節炎ぐらいで、途上国と先進国の寿命の違いが良くわかる。

A君:関節炎は、運動不足と体重過大が原因なのでしょうね。

B君:がんは、EUが最大値。日本+がその次。どうやら、寿命と関係がある。

C先生:より詳しくがんの分類をしたものが、次の表だ。


表2: 個々のがんによるDALY。これも絶対値は妙なように思える。

A君:日本が多いのが、胃がん、直腸がん、肝臓がん。

B君:欧米で多いのが、肺がん、乳がん。

C先生:がんは、加齢とともに増加する。途上国と日本とでがんのDALYが余り違わないのは非常に意外なんだ。途上国の寿命が短いだけに、がんによるDALYが少ないだろうと思っていた。

A君:発がんの原因が化学物質だけではなくて、天然物質、ウイルス、食品、かび、などなど様々な原因があることが大きいのではないですか。

B君:日本人に発がん原因は何だと思いますか、と聞くと、その答えは、「人工的な化学物質」に凝り固まっているが、もしそれが本当なら、死亡率が非常に高いアフリカの発がんによるDALYが、このような値になる訳は無い。頸部子宮がんが多いのは、やはり衛生状態が悪いことの反映なのではないか。あるいはウイルス感染なども有りそう。

E秘書:頸部子宮がんの原因は、衛生状態以外にも、出産数が多いとか様々な要因があると思いますよ。勿論、医者がいないといったことを含めて、衛生状態という表現で括ることも可能ですが。

C先生:こんな状況で、果たして健康寿命はどんな様子か、ということになる。

A君:次の表が、健康寿命などを示す表です。まず、これは世界の長寿国ばかりの表。


表3: 長寿国の不健康期間、健康寿命、平均寿命、そして、男女の平均寿命の差

B君:アメリカは、不健康期間が長く、実は、このクラスではない。アメリカは、健康に関しては、例えば、乳児死亡率などを見ても、発展途上国に分類する方が妥当だ。

A君:ここで見て貰いたいことは、不健康期間が結構長くて、男6〜7年、女8〜9年あるということです。アメリカはもっと長いのですが。アメリカ人の女性だと、人生全体の13.5%もの期間が不健康ということになります。

E秘書:健康寿命なる話、人口学会では聞いたことがありませんね。WEBを検索しても、「健康寿命」はWHOからの引用や、「健康日本21」でしか出てきません。高齢化社会政策が進んでいくなかで、出てきた概念なのかな、と思います。日本も、これからは、健康寿命でしょう。

C先生:日本のデータは、まあまあだが、まだ、改善の余地がありそうだ。それでは、途上国のデータへ行こう。

A君:次の表が、様々なレベルにある途上国のデータです。


表4: 様々なレベルの発展途上国の不健康期間、健康寿命、平均寿命、そして、男女の平均寿命の差。

B君:最下行のザンビアは、世界でもっとも寿命の短い国の一つ。平均寿命で男も女も37歳ぐらい。このような国だと、不健康期間は先進国に比べて多少短いけど、それでも5〜6年はある。健康寿命は、実に、男女とも30歳ちょっとだ。

A君:アフガニスタン、カンボジア、ベトナムの不健康期間が、先進国では最悪のアメリカと同じか、男性ではそれよりも長いというのは困ったもので。

B君:アフガニスタンの男だと、人生の1/4が不健康といことになってしまう。余り幸せには思えない。

A君:中国は、これから順調に先進国に追いつきそうな形の数値のように見えますね。

B君:ロシアはひどい。男女の平均寿命の差が余りにもひどい。13.4歳もある。これは、経済的な問題で男が酒を飲みすぎるからだろう。

A君:日本の場合も、先進国の割には、男女の平均寿命の差が大きい国だと思っていますが。最近、中高年男性の自殺が多いのが一つの要因らしくて、これも困ったものです。

B君:大体、女性の方が長生きできるように作られている。

C先生:前回、日常生活の場面でのリスクの議論をやったが、B君の話が本当かどうか、その男女差のデータを整理してみよう。

A君:それでは関連する話題として、日本(西太平洋諸国を含む)における男女差について、次の表を示します。


  表5 日本(含む先進西太平洋諸国)におけるリスクの男女差

B君:この表を見ると、一般に女性の方がリスクが少なくて、なぜ女性が長生きするのかが分かるように思える。最大のリスクであるたばこ、二番目である高血圧、いずれも女性の方がかなり低い。

A君:女性の飲酒が却って寿命を延ばすというのは本当でしょうか。

C先生:世界中で、飲酒で寿命が延びるとなっているのは、日本人の女性だけ。それほど多くを飲まないからではないか。多少の酒は、本当に百薬の長なのかもしれない。

A君:いずれにしても、これらの表1〜表5を見ると、日本という国は、大変に恵まれている国のように思いますね。

B君:ところが、世の中の理解は必ずしもそうではない。

C先生:この間、関西の読売放送で、マイナスイオンについての報道番組があって、取材を受けたのだが、5月13日に放映された。そのときの女性のアナウンサーが、「マイナスイオンですが、いかに人々が癒しを求めているか、その証明ですね」、と言っていた。「癒し」という言葉は、甘ったれた風潮を象徴するような言葉で、大嫌いなのだが、世界全体の状態と自分達の状態を客観的に眺めるということが行なわれれば、もう少々謙虚な発言になると思う。

A君:癒しが必要というのは、一つのカッコウ付けでしょう。余りにも健康だと馬鹿にされる。

B君:癒しを求めるのなら、それは人と人との関係、あるいは、人と動物との関係、人と自然との関係に求めるしかない。マイナスイオンで癒しを求められると思っているのは、所詮狂っている。

C先生:最近、嫌な人間関係を避けて、我侭に暮らしつつ、なおかつ何らかの方法で癒しを求めるという人が多いのだろう。その女性アナウンサーをはじめとして。