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    日本の調査捕鯨継続のロジック   06.04.2016
             フォーリンプレスセンターの活動




 ここ数年、日本の現状を外国人特派員に伝える役割を果たしているフォーリンプレスセンター(FPC)の評議員ではありますが、これまで、このセンターの活動をお伝えしたことがないので、一つの例題として、クジラ問題を取り上げ、今回、記事にすることを試みることにしました。

 クジラやイルカなど水棲哺乳類については、価値観が国によって全く違うことはご存知の通りで、シーシェパードのように、クジラを守るために、調査捕鯨船に体当たりをするといった活動で資金を集めている団体もあり、そこまでは行かなくても、クジラは1頭たりとも殺してはいけない食用など論外(現時点での最強国はやはりオーストラリアでしょう)といった国から、日本やノルウェーのように絶滅の危険性の無いクジラは、保全のための科学的根拠をしっかり把握した上で、食用に供することが、人類全体にとってより良好な戦略である、とする考え方の国まで、様々です。

 FPCは、様々な話題について、プレスブリーフィングを行っていますが、昨年1年で、クジラについての話題が3回も取り上げられていることを、先日、やっと知りました。一体、どのような議論が行われているのか。シーシェパードの代弁者のような人まで来ていて、荒れた集会になっているのか、などと興味をもって聞いてみたいと発言したところ、そのすべてがYouTubeに上がっているとのことを知りました。

 自宅で確認してみると、確かに、4件ほどが検索に掛かりました。いずれも、森下丈二氏が説明とその後の質疑応答を行っております。極めてわかりやすい英語ですので、是非、お聞きいただきたいと思います。その後の外国人特派員の質問は、ときに、マイクを使わない人がいたりして、聞こえない場合もありますが。

1. FPCJ Press Briefing "Report by the International Whaling Commission (IWC) Scientific Committee"
FPCJapan  78views

2.FPCJ Briefing on Proposed Plan for New Scientific Whale Research Program in the Antarctic Ocean
FPCJapan 183views

3.FPCJ Press Briefing "IWC SC Expert Panel Report about Japan’s Proposal"
FPCJapan 80views

4.FPCJ Press Briefing: Decision on the Implementation of the NEWREP-A
FPCJapan 74views


 ちなみに、4.のNEWREP-Aとは、新南極海鯨類科学調査計画を意味します。国際司法裁判所によって、調査の科学性に対して疑義が出た過去の計画を、疑義がでないような形で書きなおしたと主張するものです。

 ここでは、最新の4.を取り上げ、説明が終わってから外国人特派員がどのような質問をしたか、それに対する森下丈二氏の回答はどのようなものだったのか、をまとめてみたいと思います。

 それしても、ある意味で、日本という国と世界との相違を知る絶好の材料が、これほどしか見られていないことは、本当に無駄だと思います。たった、74viewsというのは、余りにも勿体無い数です。



C先生:まずは、本論に行くまでの準備をしよう。捕鯨問題は、日本人にとって、極めて象徴的な環境問題ではないか、と思うのだ。太地町のイルカもそうかもしれないが。

A君:捕鯨問題の解説を行っているサイトを探してみたのだけれど、捕鯨ライブラリーというサイトが、日本という国の考え方に近い解説を行っているように思えました。
http://luna.pos.to/whale/jpn.html

B君:著者は三浦淳氏(新潟大学人文学部教授)。WWFなどとの公開書簡なども読むことができるし、本音レベルで見た歴史の姿を知ることができるサイトだと言える。

A君:日本で反捕鯨的なサイトを運営しているのが、IKANという団体。
http://ika-net.jp/ja/ikan-activities
どういう哲学なのか、比較的単純な野生生物保護型の主張のような感触ですが、詳しい説明がありません。余り説得力はないように思います。

B君:「捕鯨問題」と検索すれば、Wikipediaでも充分な情報は得られる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8D%95%E9%AF%A8%E5%95%8F%E9%A1%8C

A君:遅ればせながら、水産庁の解説はここ。
http://www.jfa.maff.go.jp/j/whale/pdf/140513japanese.pdf

B君:国際的な生態系保護団体と言えば、グリーンピース、WWFなどがありますが、これらの団体が捕鯨については当然反対の立場だ。日本語サイトをアクセスすれば、大体の思想はすぐに分かる。これらの有名なNGOは論理的な説明を行っているところが多い。シーシェパードのように、暴力的な活動を行うのは、それによって、極端な反捕鯨論者からの資金が得られるからだと思った方が良い。

C先生:まずは、世界各国が捕鯨に対して、どのようなスタンスを取っているか、あるいは、取ってきたか、について簡単にまとめてくれ。

A君:その前に、捕鯨問題に関する国際的な流れの復習から。歴史的には、世界ではじめて環境問題を議論したと言われる国連の会議、国連人間環境会議がストックホルムで1972年に開催されるのですが、そこで、商業捕鯨の10年間全面禁止が決議されました。その後、1982年には国際捕鯨委員会IWCが捕鯨のモラトリアム(まあ、禁止と訳しても良いのですが、このモラトリアムに異議申し立てをして受け入れないということも可能で、ノルウェーは異議申し立ての手続きをとって、現在でも合法的に捕鯨をしている)を決定。

B君:日本は異議申し立てを撤回したので、南氷洋で行っているのは、調査捕鯨。そう呼ばれるけれど、IWCの用語では、Scientific Permitと呼ばれることが普通。捕鯨条約の第8条第1項によって、加盟国政府には、自国民に対して科学調査のためにクジラを捕獲する許可を与える権利が与えられている

A君:クジラも、種類によって資源量が全く違うのですね。シロナガスクジラのような大型のクジラを狙った捕鯨は、欧米が鯨油を取ることが目的で行ったので、数が激減しました。一方、鯨油では、ミンククジラのような小型のクジラでは商売にならないこと、さらに、欧米では、鯨肉を食べることは捕鯨の目的では無かったのです。なぜなら、それを本国まで運ぶ冷凍技術が無かったから。いずれにしても、鯨油のためにシロナガスクジラの頭数は急減しましたが、これについては、特に、米国の責任が重大なのです。当然、石油が便利に使えるようになって、クジラは油の資源として不要の長物になったのですが。

B君:日本国内でも誤解されていることがあって、それが、「調査捕鯨で獲ったクジラがなぜ売られているのか」、という主張がしばしば行われること。それが、ときに、「調査捕鯨は科学を隠れ蓑にした商業捕鯨」という反捕鯨の宣伝文句に化けたりもする。実際、条約では、クジラを廃棄していはいけないことになっている。調査のためだけに、生命を奪う行為は、非人道的な行為だと考えられているのだ。すなわち、食べなければならない。その良い副作用として、クジラを食用にすることによって得られる収入で、次の年度の調査費用が捻出されるという仕組みができることもある。

A君:最後に、最近の国際情勢。まずは、捕鯨を行っている国のリストを。
 アイスランド、ノルウェー、ロシア、アメリカ、デンマーク、カナダ、インドネシア、セントビンセント。
 アメリカがリストにありますが、その実態は、イヌイットなどの先住民による捕鯨です。
 また、デンマークの捕鯨は、フェロー諸島で行われています。フェロー諸島は、ノルウェー、スコットランド、アイスランドの真ん中にある島で、デンマークの自治領で、人口5万人ぐらい。伝統的な捕鯨手法で、住民が共同して鯨を捕獲することで知られています。

C先生:予備知識はこのぐらいにして、FPCの海外メディアレクで、説明者の森下丈二氏が、海外特派員からの質問に対して、どのような回答をしていたか、という後半に行こう。

A君:繰り返しになりますが、このプレスレクの目的は、新しい調査捕鯨の概要が決まったという話でした。さて、どんな質問が出たか、それに対して、森下丈二氏はどのように答えたのか。

C先生:我々の発言も、ここまでにしよう。コメントを書くことも止めておこう。しっかりと読んで、自分で自分の感想を持って貰いたいので。

以下、約30分の講演の後の質疑応答をまとめたもの。



質問1:今回の調査捕鯨で得ることを目的としているもっとも重要な科学的情報は何か。

回答1:それは、南氷洋における各種の鯨の生息状況に関する生態学的情報を得ることだ。
 ミンククジラが生存数がもっとも多いが、それは、ミンククジラが小さすぎて、鯨油を取るには商売にならなかったから。大きなナガスクジラなどが減ったために、ミンククジラがクジラ生態系の中心になった。ところが、このところ、何かが変わり始めている。ミンククジラが主役になって以来、成熟する年齢もどんどん低下したが、最近、大きなクジラが復活しはじめていることで、活動の範囲が制限されたことが理由かもしれないし、また、地球レベルの気候変動の影響が南極に及んでいるのかもしれないが、ミンククジラになんらかの影響がでているようだ。
 このような生態系の変化を調査によって明らかにすることで、ミンククジラの保全のために、生存数を減らすことのない捕獲可能数なども分かるだろう。

質問2:日本の今回の計画は、日本政府はまたもや非倫理的な決定したという反応が来るのではないか。NewYork Times & Haffintong Post

回答2:クジラを一匹たりとも決して殺すことはならない、という倫理的な価値の主張もある。このような主張を無視するつもりはないが、例えば、調査捕鯨の科学的方法が不十分という指摘に対して、それなら、仮に完璧な科学的な方法論を提案すれば、捕鯨を認めるのか、と聞くと、いや、クジラを食用にすること自体が認められないという回答が来る。一方我々は、我々がクジラを食べることは、人類の一つの知恵としてあり得ると考えている。もちろん、科学的に持続可能性が証明されていれば、という条件付きである。
 かって、FAOの上層部が、このようなことを言ったことがある。人類は農業を1万数千年前に発明した。そして、非常に多くの生命を食料にすることが可能になった。人類は、7000種類ほどの食物をテストしたと言われている。しかし、実際に食料になっているのは、大きく分類すると23種類しかないとされている。
 今後、地球環境の大幅な変化やBSEのような人獣共通疾病の流行などによって、人類が食べることができる生物の数は、大幅に減少してしまうかもしれない。クジラのように、大型の哺乳類は、生存のために非常に大量の食物を必要とする消費者である。いくら貴重だからといって、消費者を消費者のままにしておく訳には行かないかもしれない。それは人類のエゴだと言う倫理的な考え方もあるだろう。しかし、そうではなく、あらゆる種の生命と共存状態を作るとい考え方もあり得るかもしれない。いずれにしても、柔軟な対応を考えるのが、やはり合理的は判断であると言わざるを得ない。
 例えば、牛肉を食べることは、ヒンドゥー教徒にとって、許すことができないことである。宗教という一つの倫理的理由によって、他の国で牛肉を中心に据えるマクドナルドがインド国内に開店することを禁止するという決定がなされたら、米国の皆さんはどう思うのだろうか。(筆者注:インドのマクドナルドの商品、肉はチキン、あるいは、ベジタリアン用のコロッケサンドのようなもの)。
 また、ある地域、例えば、アイスランドのような食料の自給が難しい場所を思い浮かべたとき、その地域で何を食べるのかということは、その地域に居住する人々が決めることであって、それに対して、何かを食べては行けないといった干渉をすることが、果たして倫理的な行動だと言えるのだろうか。
 我々日本にとって、捕鯨の問題は、ある意味で取り扱い易い問題である。その理由は、すでに日本にはクジラを商品とする産業というか工業は消滅しているから。残っているのは、本当に小規模な食品提供業ぐらいでしかない。利害関係がかなり簡単なのだ。

質問3:日本人はこのプロジェクトを支持しているのか。 AP通信(日本人)。 
 
回答3:世論調査をやったが、その結果は、60〜80%の捕鯨を支持している。

質問4:日本が消費している鯨肉の量がこのところ増えているのはなぜか。 AP通信(外国人)

回答4:鯨肉はアイスランドかノルウェーからの輸入である。両国とも、合法的に捕鯨を産業として行っている。ワシントン条約上も合法的な行為である。彼らが輸出するのであれば、日本が輸入することになんら問題はなく、このような純粋なビジネスを、日本政府は規制する意志はない。