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   省エネと再生可能エネルギーの限界  05.29.2016
                  50Hzと60Hzの呪い




 パリ協定の合意を受けてだろうか、再び様々なエネルギー関係の本が出版されている。書かれていることがかなり様々なので、どの本の内容を信じたら良いのか、それが問題になる。いくつかの判定条件があるようには思うので、それを徐々に取り上げてみたい。
 本日取り上げる判定基準は、これである。
 ”「徹底的省エネ努力と再生可能エネルギー大量導入で日本のエネルギー供給問題は解決できる」と述べている本はウソである。
 しかし、あり得るウソのすべてを取り上げるには、相当量の記述が必要不可欠なので、まあ、第一回の入門編であるということで、省エネと自然エネルギーの現状を簡単にチェックしてみることにする。



C先生:先週の記事の延長線上で、「徹底的省エネ努力と再生可能エネルギー大量導入で日本のエネルギー供給問題は解決できる、はウソである。」を取り上げることにした。ただし、このウソの証明はかなり難しいことも事実。なぜならば、自然エネルギーは、お金をいくら掛けても良いのなら、例えば、「電力の供給を受ける条件に、相当な規模の太陽電池と相当な容量の電池をもっていることが条件。望ましくはないが、どちらか片方でも容量が充分大きければ許容する。もしも両方ともダメな場合には、電気料金を数倍高くする」、といった条件を付けることで、状況はかなり良くなるからだ。

A君:徹底的省エネ努力もそうでして、「電力料金を決めるのは、(基本料金+電力使用量による料金)×電力単価ではなく、(基本料金+電力使用量による料金)×電力単価×不効率指数」と決定することで改善できる。要するに、市民がエネルギー関連にかなり投資をすれば、問題は解決に近づくのですが、その金額はかなり大きいですね。したがって、なんらかの強い強制力がない限り、実現できない。これがかなり高いレベルになることは、考えにくいので、ウソだと主張していることになります。

B君:なるほど、その家なり事務所あるいは工場などについて、そこで動作している機器の効率をすべてオンラインでモニターして、機器の効率が悪い場合には、かなり高い不効率指数が決まることになれば、多くの人々が、自分のところの電力使用効率向上のために、それなりの投資をするようになるだろう。

A君:IoTという仕組みが電力価格の決定方法にも使われるようになる、ということです。それには、すべての機器などが、ネットワークにつながらなければならないことになる。そして、電力の使用効率がモニターがされる。

B君:こんなことになると、50インチ程度の4Kテレビは、画面がキレイ(実用上はそう思えるだけ、が真実)というメリットと消費電力のバランスが悪いことが明らかになって、売れなくなるだろうから、販売店やメーカーは、かなり反対をすることになるのではないだろうか。

A君:まあ、そうでしょうね。洗濯機の場合には、使用する水の量もモニターされていて、供給のために使われるエネルギー量まで、計算に入れると完璧ですけど。

B君:水道のメーターがIoT化されるとも思えないな。しかし、個別の電気機器であれば、水使用量を計測することも不可能ではない。

C先生:そろそろ本題だ。そんな仕組みになれば、徹底的な省エネもかなり進むのだけれど、とても、とても、そんなことにはならないだろうと思う。しかも、もしもそのような省エネの仕組みが進んだとしても、どこまで省エネ技術が進化するかが問題なのだ。そこで、さらなる省エネ技術がどこまで進むかを議論して欲しい。

A君:現状だと、省エネは余り商売にならない。電力価格が安すぎるからです。もし、不効率指数が導入されたとすれば、技術的限界にチャレンジする可能性があるので、なんとも言えない部分もあるのだけれど、現状の機器でも、一般的な機器の省エネは、できることはすべてやられている状況。

B君:どっかで、そんな記事を書いたけど、まずは過去の解析から。
http://www.yasuienv.net/EneSaveHis.htm
我々の推測値では、1973年を100として、2013年までの40年間で、冷蔵庫は脅威の9ぐらいまで省エネが進んだ。なんと1/10以下だ。その理由はインバーターと真空断熱。インバーターの効果は、ルームエアコンでも出ているのだけれど、それでも1973年を100として、30ぐらいのレベルに留まっている。まあ1/3がインバータだ。テレビは様々な技術が導入されてきたものの、スクリーンのエッジに配置したLEDをバックライトに使う技術のために、消費電力は1/7ぐらいになった。問題は、もう進化の余地が無いのではないか、ということなのだ。

A君:確かに。インバーターについては、半導体の進化があって、普及しました。現時点まだまだシリコンを使った半導体が主力ですが、現時点では、照明用LEDの半導体として有名なGaN(窒化ガリウム)をインバーター用の半導体に使おうということが試みられています。しかし、シリコンのインバーターのエネルギー効率は、悪いといっても90%はあるので、例え、GaNになって95%になったとしても、効率的には、5%しかアップしない。ハイブリッド車にも現在はシリコンのインバーターが使われているけれど、将来、SiCになると考えられています。それは、耐熱性が高まるために、現在のインバーターは水冷されているのですが、それが空冷ですむために装置のコストが下がる、といった要因の方が多いように思えます。そもそも、電装系を水冷するのは、なんとなく嫌ですよね。

C先生:という訳で、省エネが利くのは、家庭や事務所ではなくて、むしろ工場。しかし、こちらの問題は、新しい機器を買い込む余裕が、工場側にあるかどうか。いつまで現在の仕事を続けられるか、それが最大の問題という中小企業も多いのだ。

A君:ということになると、日本の省エネは、もし実現されたとしても、本当の意味での省エネ機器が開発されるからではなくて、産業が衰退することによって、エネルギー消費量が低下するというプロセスではないか、と考えられてしまうのですね。

B君:あるいは、省エネは、人口減少によって実現される。やはり、経済規模を拡大するために、1億人の人口を維持しようとする考え方自体が、無理なのではないか。

A君:もっとも、海外からの観光客が増えても、エネルギー消費量は増えますが、こちらは当然受け入れることになるのでしょうね。

C先生:ということで、徹底的省エネをどこまで実施できるか、それが大問題。確実に行われることは何か、と言われれば、自動車の電動化によって、省エネがますます進行する。それだけでなく、石油を直接燃焼しないで、電力で自動車を動かせば、二酸化炭素発生量は減る。

A君:それは、これまでの内燃機関というもののエネルギー変換効率が悪いこと。そして、モーターのエネルギー変換効率が相対的には高いこと。この二つが要因ですね。モーターのエネルギー変換効率が画期的に高まる可能性はありません。電池の内部損失が下がることは、若干期待できるかもしれませんが、だからといって、全体的な効率が倍になるというようなことはありません。

B君:という訳で、省エネによって、簡単に電力使用量やエネルギー使用量が減るような状況は、すでに終わっていると考えざるを得ない。それに、技術的な進化が望める領域がかなり限られていることも状況を難しくしている。現時点で、まだまだ省エネ技術が進むと考えられているのは、情報関係ではないか。

A君:まあ、そうでしょうね。情報を蓄積することも、昔ならハードディスク。基板がガラスになって、1プラッタあたりの容量が増えて、結果的に蓄積情報量あたりの消費電力は下がりました。その後、SSD(Solid State Disk)が登場し、容量もまあまあ充分になって消費電力は大幅に低下。しかも、アクセス速度が格段に改善されました。

B君:この領域、すなわち、情報分野であれば、なんらかの方法で情報を保存すれば良いので、新規な原理が発明され、実用化される可能性も高い。これは、非常に重要なことで、なぜならば、地球上に蓄積される情報量は、今後、当分の間、増加し続けると考えられるからだ。

A君:現在のSSDでも消費電力が高すぎるので、画期的な新技術が開発されることを期待しますね。勿論、エラー率などの性能も高くならないと。まあ、情報の自動修正技術なども高度化するでしょうけど。

B君:コンピュータ部門の省エネは極めて重要ではあるけれど、2050年頃の情報のストーレージは、現在全く存在していない技術になっていることだろう。むしろ、ここ何10年と存在していた技術の方が、進化させる動機、多くの場合には、メーカー間の競走だけど、その要素が大きい。

C先生:要するに、さらなる省エネといっても、一般家庭で使われるような製品よりは、情報処理関係のような分野での省エネに期待すべきだ。しかし、残念なことに、そのような分野の消費電力は、通常のオフィスや家庭では、それほど大きくはない。グーグルとかアマゾンのような情報を大量に使う企業が使うストーレージについて、消費電力の縛りを作るのは面白いかもしれない。

A君:ということで、省エネは、必須ではあるものの、それに大きな期待をするのは間違っています。自動車の燃費向上にしても、見かけ上の燃費の向上に比べて、実質燃費の向上は、それほど大きくない。なぜならば、本気で燃費を高くしようとすれば、もっとも簡単なことが車重を大幅に減らすこと。ところが、現時点だと、より大型化(ドイツ車が顕著)、快適化、情報化と自動化などの新機能を追求しているので、1台あたりの燃費は、EV化する以外に減らす方法が無いのかもしれない。ドイツ車がプリウス的ハイブリッド車になれば、全く状況は変わるけれど、彼らは本気で消費エネルギーのことを考えていない。もっとひどいのは米国の消費者層のマインド。

B君:ということで、そろそろ省エネから、次の自然エネルギーの大量導入の話題に移ろう。

A君:この問題の限界点がどこにあるか。その認識がまず最大の問題ですね。

B君:そう。ヨーロッパではあれほど自然エネルギーが導入されているのに、という主張に対してどう答えるかから行くか。

A君:良いでしょう。ヨーロッパには、国境を超えた送電網ができていて、もしも、電力が不足すれば、他の国から買うことができます。そして、国の特性がかなり違いますので、様々な組み合わせの電力を想定することができて、安定性も高いのです。

B君:例えば、ノルウェーなどの北欧の水力発電、イギリスなどの洋上風力発電、バルト海での洋上風力発電、それに、フランスの原子力。このようなゼロカーボン電源がかなり柔軟に使えるのがヨーロッパ。

A君:ところが、日本だと国境を超えた電力網を作ることを考えることが難しい。韓国に特に自然エネルギーがある訳でもない。韓国を超えて、北朝鮮経由で中国まで行けば、今後、大量に建設されるであろう原発の電力を買い込むことは可能かもしれない。しかし、これを真剣にやろうという人は何%いるだろう。そもそも、国際関係がエネルギーにますますな影響を与えてしまって、Energy Securityが極めて怪しい状態になりますよね。

B君:ロシアに電力網を作るのも、それほど意味があるとは思えない。むしろロシアは、極東では天然ガスだろうし。

A君:電力網ではないですね。サハリンで天然ガスを水素化して、COはCCSで処理という方法なら、2050年を超えても使えますが、すぐに始めるようなものではない。

B君:という訳で、日本には、ヨーロッパのような再生可能エネルギーを大量に導入するための電力網という基盤がないのだ。

C先生:そろそろ、本題に行こう。ヨーロッパのような国際的な電力網が無いことは、狭い国土の中で問題を解決しなければならないということを意味する。

A君:と言っても何が問題なのか、理解できないと思います。
 ヨーロッパ全域は送電網で結ばれています。北はノルウェーの水力発電の電力があり、イギリスはエネルギーが少ない国ですが、今、ノルウェーと直流送電網を作ろうとしています。フィンランドの水力発電も、バルト海を渡って、エストニアに接続されています。
 EU域のサイズは、経度にして36度分、緯度にして33度分もありますが、日本は、経度も緯度も14度分程度の広がりしかありません。EUであれば、北国が雨でも、ギリシャは晴れている、南は無風でも、北方は強風が吹いているといった気候の多様性も確実にありますから、太陽光も風力もどこもが発電量ゼロという可能性が低いのです。
 ところが、日本程度のサイズだと、まれにかもしれませんが日本全国が雨といった状況も無いとは言えません自然エネルギーの場合には、広い範囲で電力網があることが極めて重要なのです。

B君:確かにその通り。しかし、日本の場合には、さらに悪い状況がある。それが50Hz域と60Hz域が分かれていること。そのため、国土の広さが、実質的に半分しかないことを意味してしまう。

A君:50Hz、60Hzという2つの周波数があることは、歴史的な理由で、アメリカとドイツから異なった技術を導入したことが今まで残ってしまった。どこかで、統一しておけば、こんな面倒なことになることも無かったのですが。

B君:今、連系線でもっとも問題なのが、東京中部間連携設備、すなわち、東電と中電との間で50・60Hz変換を行っている容量が現在120万kWで、2020年度末までに210万kWに増強される予定。

A君:この制限が本当に問題になるかは良く分からないのですが、実は、自然エネルギーのポテンシャルが、西日本がかなり弱いのです。日本全体を見ても、陸上風力だけでは、自然エネルギーに依存することもできない程度のポテンシャルでして、最後には、やはり洋上風力頼みになると思われるのです。
 次の図が、陸上風力と洋上風力のポテンシャルを示しています。

図1 風力のポテンシャル 左:陸上風力 右:洋上風力

B君:右側の図が洋上風力のポテンシャルで、風速の高い部分を示す赤い部分が広いのは、明らかに、北海道から千葉あたりまで。ここに大きなポテンシャルがあるけれど、西日本にはほとんどポテンシャルが無いことが分かる。ということは、ポテンシャルの総量を入れるといった再生可能エネルギー強化策を考えたとしても、電力を東から西に送ることができなければ、西日本は電力不足になる。

A君:なぜ、洋上風力か、と言えば、再生可能エネルギーで頼りになるのは、太陽光よりは風力。バイオマスはやはり少ない。陸上風力そのもののポテンシャルも、東日本に多いのだけど、絶対値としてはそれほど頼りにならない。そこで、再生可能エネルギーの割合を増やそうとすると、洋上風力頼みになるのです。

B君:地熱も安定で良い再生可能エネルギー源だけれど、発電の絶対値としては、それほど大きなものではない。しかし、一応、地熱関係のポテンシャルも見てみるか。

図2 地熱発電のポテンシャル地図

A君:やはり北海道と東北、さらには関東・北陸といったところ、すなわち、50Hz圏にに大部分のポテンシャルがあって、北陸だけが60Hz圏ですね。

B君:これまで日本という国は、火力発電と原子力発電を主たる手段と考えてきたために、50Hz、60Hzが大きな問題になるといった認識がなかった。ところが、福島第一の事故で原子力が厳しい状態に突入し、その4年後にはパリ協定で自然エネルギーの大量導入が必須という状況になってみると、やはり、西日本地域の弱さが目立つようになってしまった。

C先生:この問題を解決するには、洋上風力の電力を北海道と東北そして関東で発電量を増やして、余剰分を60Hz域に送らなければならない。それなら、北海道から東北に渡るときには、現在だと海底ケーブル経由なので、直流送電になっている北海道本州間連携線(略称:北本連系線)をそのまま伸ばして、中部電力まで繋ぐというやり方があり得るのかもしれないのだ。要するに、直流送電網を整備するということを意味するのだが。

A君:直流には伝送効率が高いというメリットがあって、交流ですと、平均的なロスが6%(1000km)ぐらいなのが、直流にすると3%(1000km)程度に抑えられるのです。

B君:もっとも、北本連系線も、これまでは海底ケーブルだったのだけれど、今後は、新幹線の青函トンネルを通すという話になっているようなのだ。となると、交流なのかもしれない。

A君:しかし、将来的には、直流幹線がロスの少なさから言って本命でしょう。実は、洋上風力は海底に電線を通すことになりますが、水中は誘電率との関係で、交流のロスがかなり大きくなるので、直流が本命。となれば、直流そのままというのが普通になるのでは。

B君:これまでは直流では遮断するのが難しいと言われてきた。交流だと電圧がゼロになる瞬間に切れば、問題は出ないのだけれど、直流だと、そんなタイミングがないので、人為的にゼロ点を作らなければならない。

A君:それでも最近の技術はかなり進化したようです。直流が本命になっていると思います。

B君:ABBという企業がある。もともとはスイスの企業で、Siemensとともに、送電技術の雄とされている。2010年に、スウェーデンとリトアニアからスカンジナビアとバルト地域400kmを接続する直流送電網を5億8千万ドルで受注したというニュースがある。この契約には、400kmの300kVの海底ケーブル2本が含まれているとのこと。

C先生:日本という国にも、直流幹線網を作ってしまうことが、究極的な解決法になると思うのだけれど、電力会社を送電会社と発電会社に分けることになっているので、送電会社は送電手数料で生きなければならないことになる。そうなったとき、直流送電網を作れといった大規模なプロジェクトが必要になったとしても、それを実行するマインドの企業になるのだろうか、という疑問がある。九電力体制を壊して、日本送電会社といったような一社だけにすることによって、なんとか、全日本を見据えたプロジェクトが作れるようになるのではないか、と思われる。いずれにしても、電力会社の将来がどうなるのか、かなり不確実な状況になっている。
 このような国家のエネルギー供給体制に関して、自由化というものを実施したのは、良かったのかもしれないが、まだ、結果が分からない。もしも、電力関係企業が資金力を失えば、日本における再生可能エネルギーの導入に問題が発生することはほぼ確実なのだ。それを国がやるということになると、またまた国債が頼りになって、赤字を増やすことになる。
 日本程度のサイズの国で、しかも、島国では、再生可能エネルギーというものとは、もともと相性が悪いのだ。しかし、それしか解が無いのも事実なので、社会システムやカーボンプライシングを含めて、どのような精緻なシナリオを書けるか、それが勝負であって、単に、再生可能エネルギーを増やせば良い、という単純な議論では、状況を複雑にしているだけで、本物の解決策を提示したとはとても言えないのだ。
 結論その1として、省エネは、全く新しい情報用のデバイスが作られることに期待できる程度であって、それ以外の省エネは、ほぼ最終段階。古い機器が使われている工場などの設備更新が済めば、それで終わり。
 結論その2として、そもそも日本を再生可能エネルギーだけでカバーしようとするには、日本列島のサイズは小さすぎる。しかも、50Hzと60Hzによって、そのサイズがさらに半分になっているのが現実。せめて、異なる周波数の問題を根本的に解決する直流送電幹線網ができない限り、再生可能エネルギーの有効性を高めようとすると、相当高額な個人負担が必要となる。ヨーロッパでできることが、日本でできないのはケシカランと言うのは勝手だけれど、その発言は、再生可能エネルギーの”気象によるゆらぎ”という本質が分かっていないことを証明しているようなものである。