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  家庭用風力発電のフォロー 02.05.2006
     



 「今月の環境」を2月からブログに移動した。http://mntrav.cocolog-nifty.com/kankyo/ 多少なりとも作成に要する時間が減ることが主たる理由であるが、トラックバックなるものの機能が面白いと思ったのも理由の一つ。

 早速、2月3日に記述した風力発電の記事にトラックバックをもらった。あの記事は確かになんら検討をしないまま書いたものだった。

 そこで、本日は、それをフォローの記事を作成。


C先生:トラックバックは、新聞記事に書かれていた記述が、発電量(kWh)と出力(kW)が混同されているといことの指摘だ。確かにその通り。あの記事では、自分でも書き違えた。また、メディアがkWhという単位を正しく使っている方が少ないぐらいだ。

A君:エネルギーという概念を教えるのが難しいと言いつつ、新聞が間違っていることを指摘し忘れる。

B君:数字などを読んでいない証拠のようなものだが、なぜメディアがkWhという単位を使わないのか、それは大変な疑問だ。

C先生:この記事を取り上げた理由は、小型の風力発電では、なかなか目論見どおりの発電量が出ない。だから、得られた電気で取り戻すことのできる金額は微々たるもの。投資のために小型家庭用風力発電装置を付けるとかいうことは少なくとも、東京ではありえない。これを主張したかっただけだ。

A君:それでは、これを本HPで検証してみますか。まず、ゼファー株式会社のHPからご紹介。
http://www.zephyreco.co.jp/
エアドルフィンの仕様のページは、
http://www.zephyreco.co.jp/AIRDOLPHIN/dol_spec.htm
これは、朝日新聞に出てたアウルよりは遥かにましな機種のようです。

B君:風力発電はまさに風任せ。だから、風がどのぐらい吹くかという風況に大きく影響される。日本にも風況マップというものができていて、適切な地域が無い訳ではないのだが、実際のところ、風力発電会社を作ったのに、風が吹かなくてつぶれたという例もある。

A君:風況マップは、風力発電ネットワークのHP http://www.tronc.co.jp/ の中にあります。http://www.tronc.co.jp/pdfweb/fuukyo8pc0.pdf

B君:これを見ると、東京は絶対的に駄目のようだ。そもそも東京の平均風速とはどのぐらいのものなのだろうか。

A君:東京ヘリポートによれば、http://www.tokyo-jma.go.jp/home/haneda/etc/k-toheri.html 平均風速は、3.5mから4.4mの間のようですね。まあ、弱いと言えるでしょう。風力発電は、やはり6mとか8mとかいった平均風速のところが検討に値するようですから。

B君:風力発電は風任せということは分かっていても、8mとかいった風は吹かなくても、4mぐらいの風が吹いているのだから、8mの場所の半分ぐらいの発電量は稼げると考える人も多いのだろう。

A君:しかし、残念ながら、風力発電の出力は、風速と直線関係には無い。風速の三乗に比例すること、そしてさらに摩擦があるために、風速の低いところではほとんど発電しない。さらに、20mを超すような風が吹くと、風を逃がす必要があって、発電量が下がる。

B君:風速が半分になったら、発電量は、1/8に落ちてしまう。ゼファーの仕様書に書いてあるデータを検討して、本当に風速の3乗になっているか調べてみるか。こんな図になる。

図1:ゼファーの仕様書から見た発電出力の風速依存。この機種の定格出力は、風速が12.5m/秒とかなり強風時に設定されている。



A君:風は一定ではないから、平均風速が揺らいで強風が吹いたときに、若干量を発電するでしょう。となると、どのような風が吹いていたのか、もっと詳しく知らないと。
 そこで、2006年1月に、どのような風が吹いていたのか。東京でのデータを図に示します。

図2:東京のおける詳しい風のデータ。単位m/秒。


B君:そもそも瞬間最大風速とは何だ。

A君:知りませんね。調べましょう。えーーと。どうやら0.25秒持続した風速の最大値のようですね。

B君:となると、そのデータは無視だな。最大風速とは?

A君:ええと、それは任意の10分間の平均風速の最大値のようですね。

B君:だとすると、そちらは発電に効きそうだ。

A君:東京の風況と見比べると、ゼファーの新機種エアドルフィンは1kWの出力は風速12.5m/秒の時の値であって、10分間以上1kWの出力が得られた日は、1月14日のみであることが分かります。そして、1日の最大の出力は恐らく19日に得られただろうと推測できます。

B君:500Wが得られる風速を9m/秒だとすると、それ以上の最大風速が瞬間的に(10分以上)あった日数が8日間。8m/秒以上の風速で、最大出力が瞬間的に300Wに到達した日は、5日増えて合計13日。しかし、瞬間的な最大出力が100Wに届かない日も10日前後あったのではないか。

C先生:多分そんなところだろう。どうみても、月間の平均出力は、100W以下なのではないだろうか。1ヶ月の総出力は24時間×30日として、72kWh程度が最良か。1kWhを25円としても1800円。年間2万円分の発電が最大値だろう。

A君:こんな予測が正しいのかどうか調べてみますか。文書を探してみると、環境省が国立公園への風力発電の設置を検討している中で、「風車の稼動効率(定格出力と年平均実出力の割合)は、風況にもよるが、変動の大きなところで2割、安定した洋上でも3割」とある。しかし、東京だと1割程度に留まるのではないでしょうか。しかも、小型だから、さらに効率は悪い。となると、その推測値でも、甘いのでは。

B君:となると、東京で47万円する風力発電機を買った場合、年間発電量が2万円を越えたぐらいだと仮定しても、費用の回収にまあ最低20年は掛かることになる。ただし、出力25Vであり、電力系統との連携がどうなっているのか、そのためにどれほど費用がプラスされるのか、また設置にいくら費用が掛かるのか、これも不明である。ひょっとすると、機器の寿命内で、投資の回収は不可能かもしれない。まあ、太陽電池も気が長い話だが、風力発電装置は、特に小型の風力発電装置はさらに気の長い話のようだ。

C先生:そんなことを調べていたら、妙な話がヤフーに出ていたのを見つけた。実は、若干個人的にも関連のある話だった。「環境と経済の好循環」を実現するための環境省のプロジェクト、まほろば計画のひとつ、つくば市のプロジェクトが妙なことになっているようだ。

A君:これですか。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060203-00000070-mailo-l08
 この記事はそのうちインターネットから消えそうですので、概要を記述しますと、
 つくば市が、04年度から3カ年計画で市内の小・中学校全52校に小型風車75基を設置する「まほろば事業」で、期待していた発電量を得られていないとして、市民団体が市原健一市長らに事業費約3億円の弁済を求める監査請求を起こした。環境教育と、消費電力の削減の両面を持つ理想の事業が、大きく揺れている。
 稼働した昨年7月から11月の発電量は、見込んでいた6万キロワットの0・002%しかない103キロワット。風車は当初からほとんど回らなかった。市は環境省と協議し、2カ所に風速計を設置して、風量などの調査を開始せざるを得ない事態になった。

B君:いくらなんでも予測値の0.002%というのはひどい。

A君:その原因ですが、
 市は、04年10月に委託先の早大に1750万円で事業調査を依頼したが、報告書に記載された年間発電量は、実際に設置された小型風車の3倍の巨大風車で算出されていた。小型風車では市の計画する年間発電量を到底見込めなかった。
 市は「報告書が提出されたのは05年3月と遅く、すでに工事の入札が始まり、事業を早急に進めなければならなかった。早大を信頼しきり、まさか架空の風車で算出しているとは夢にも思わなかった」と弁解する。

B君:早稲田大学か。

A君:早稲田からの説明ですが、
 18日に市が早大で事情を聴いたところ、早大理工学総合研究センター副所長の橋詰匠教授は「発電量の計算に使った風車は、机上の計算でつくり出した架空のもので、製作したことがないので性能は確認されていない」と虚偽の報告をしたことを認めたが、「詳細は調査中」といきさつの明言は避けたという。

B君:姉歯の風力発電版でなければ良いが。

A君:早稲田の説明は、今回の事件とは無関係な時期に出ているようですが、こんな風です。
http://www.asahi.com/ad/clients/waseda/opinion/opinion157.html

C先生:この話も相当ひどい。早稲田大学の責任は見逃すことができない。しかし、今後どんなことになるのか、今は見守るしかない。姉歯と違って、地方自治体と国が被害者で、一般の被害者が無いのが救いか。

A君:自治体が風力発電で詐欺もどきにあったという話は、いくつかあるようですよ。恵山クリーンエネルギー開発(株)という北海道恵山町の作った第三セクターの事業は、風が吹かなくて破綻したようです。
http://homepage3.nifty.com/carib7/eng/wind/map-hokkaido.htm

B君:風力発電に適した風というものが、なまじの強さではないことをその町の役人が誰一人認識していなかったのではないか。エアドルフィンの定格出力である1kWが出るためには、12.5m/秒という風が必要。この風は相当なものだ。強風で歩きにくい。傘がさせない。吹流しは水平。樹木全体が揺れる。電線がなる。こんな風だ。

A君:そんな強風が吹いているところが風力発電の適地ということです。

C先生:風力発電が再生可能エネルギーの重要な候補であることは間違いはない。しかし、日本の風況は複雑で、陸上には、高山の頂上を別にすれば、適地が少ないのだ。しかし、離島では風も強いので、重要な寄与ができるだろう。加えて、将来は、洋上風力を本気で考える必要があるかもしれない。

A君:しかし、電力会社の態度がそうなっていない。風力発電どころではない、というのが電力会社の本音でしょう。

B君:京都議定書の約束期間に、排出量取引でロシアに払う分を使って大量の風力発電を作る、というのはどうだ。

A君:それよりは、省エネ技術を開発した方が、波及効果がありそうに思えますが。

C先生:とにかく、日本のエネルギー戦略における再生可能エネルギーの地位が低い。これはなんとかしないと。
 それはそれとして、つくば市の話に見られるような風車があることがある種の象徴、環境コンシャス都市の象徴、になると思って風力発電を導入するような時代は終わった。実用的でかつ再生可能な発電手法として、中身をしっかりと見極めることが必要だ。