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 カリフォルニア州のゼロエミッション車    08.30.2009
     



 日本では、電気自動車というキーワードが先進性の象徴になっているように思える。日本交通は米国のベンチャーと電気タクシーの実験を行うという。電池を交換するというスタイルらしい。

 このように電気自動車というと、今回の電気タクシーのように、たった3台からスタートといった記事でもメディアが取り上げてくれるもので、企業宣伝の企画競争になっている。

 しかし、電気自動車の本質は、実は、日本国内にある訳でもない。すでに、電気自動車が必須という国際的な規制が存在していることを、もう一度復習したい。

 それは、米国カリフォルニア州のゼロエミッション車に関する規制である。



C先生:このところ、話題がかなり自動車よりになっていて、自動車評論家なみになっている。それもこれも、電気自動車が最先端技術などというメディアの記事を読まされては、いい加減にしろ、という思いが強いからだ。

A君:自動車評論家には、どうも2種類いて、マニア上がりで勉強もしていない。そして電気自動車とかいった先進技術に理解ができない人。このあたりは、国沢氏が文句を書いていますね。
http://kunisawamitsuhiro.blog70.fc2.com/blog-entry-385.html

B君:国沢氏は8月22日に発表された「ホンダEV開発」について、こんなコメントをしている。http://kunisawa.txt-nifty.com/kuni/

「ホンダがEVの開発をしている、ということが大きなニュースになった。どうやら一般のメディアはEVの技術を「難易度高い」と考えているらしい。「笑止!」であります。例えば燃料電池車FCXクラリティから燃料電池を取れば、高性能EVなのだから。ホンダがEVを作る気になれば、いとも容易く作れるだろう。

同じく「トヨタがEVを」みたいなニュースを見たら、もはや大笑いしていい。プリウスからエンジン取ると、すぐEVになる。というか、すでに82馬力のモーターを搭載しているので、こいつを110馬力とし、リチウムイオンバッテリーを24kWh搭載してやれば、日産リーフと同じようなEVになってしまう(バッテリー搭載位置は工夫必要)。

ハイブリッド車を販売しているメーカーにとっちゃEVなど簡単だし、最初からコスト的にも安く作れる。前出プリウスの82馬力モーター&インバーターなら、そのまんまヴィッツ級EVに転用可能。その場合、エンジンや冷却系など不要になるため、車両本体を120万円くらいで作れるだろう。日産リーフの半額ということです。

EV最大の技術的ハードルはバッテリーだ。ホンダならどこかのメーカーから買わなければならず、トヨタもサンヨー製を使うしかない。いずれも決して安くないと思う。逆にバッテリーのメドさえ付けば、すぐにでも市販可能。ちなみにマツダとスズキはEVを作るとなると、ハードよりコストダウンに苦労するハズ。」

C先生:普通に考えれば国沢氏の意見と同じになってしまうのだが、メディアだけは普通じゃないというのがおかしなところ。

A君:やはり新聞記者という人種に、理系が少ないからですか。

B君:自腹を切ってでも何かを試すというマインドをもった人種がいないからではないか。新聞記者で、何人が3代目プリウスかインサイトを自腹で買ったのか。

C先生:そう言えば、国沢氏も自腹でプリウスを買っている。いろいろと改造もしているようだが。自分で体験しなければ、批評もできない。

A君:そして、本日の本題は、そのホンダがなぜEVを開発中であることを発表したか。8月22日の新聞。

B君:それは、日本のメディアが反応をしてくれるので、喜んでやった。。。のではなくて、本当は、カリフォルニア州のゼロエミッション車=ZEV規制への対応を考えてのこと。

C先生:カリフォルニア州のZEV規制は、余りにも先進的な規制が平然と書かれるために、米国の自動車業界が訴訟を起こしたりしている。自動車業界との大変な突っ張りあいをやっているのだ。

A君:2009年−2011年に、電気自動車を含む規制が始まったと言えますね。

C先生:非常に複雑怪奇な規制なので、できるだけ整理して説明をして欲しい。

A君:了解。資料は、カリフォルニア州が作ったものと思われる「ZEVに関する教本」。http://www.arb.ca.gov/msprog/zevprog/zev_tutorial.pdf
が、省略語などが多くて分かりにくいけど、それでもマシな方でしょう。

 まず、最近の情勢の変化として、次のことが記述されている。

・リチウム電池が進化し、電気自動車用バッテリーとして使える。
・プラグインハイブリッドが商業的に成功しそうである。
・そこで、プラグインハイブリッド車の生産を奨励すべきだと思われる。
・そのため、ZEVの義務の見直しを行う必要がでててきた。


B君:ということで、本命は、プラグインハイブリッド車であることを認識しているということか。

C先生:アメリカだと、航続距離の短い電気自動車の普及はなかなか困難ではないか、と思われる。それはやはり国がデカイから純粋の電気自動車では、たとえ通勤用としても、やはり不安がある。

A君:いずれにしても、ZEVとは純粋の電気自動車や水素燃料電池車のように、CO2を含めて有害と考えられる排気ガスを一切出さない車。

B君:ただし、ZEV規制には、これらだけでは対応は不可能なので、さまざまな形式がある。組み合わせて対応することになっている。


ZEV関連の車の定義
・ZEV= 水素燃料電池車(FCV)、バッテリー電気自動車(BEV)
・Enhanced AT-PZEV= プラグインハイブリッド車、水素エンジン車
・AT-PZEV=ハイブリッド車、CNG車、メタノール型燃料電池車
・PZEV= 極限まで排気がクリーンな普通車(部分的なZEV)

ちなみに、略語は、
ZEV: Zero Emission Vehicle
AT: Advanced Technology
PZEV: Partial Zero Emission Vehicle


A君:しかも、ZEVだけでも、その航続距離によって、以下のような分類があります。

ZEVの分類
・タイプ1:50−70マイル走るEV:クレジット2点/台
・タイプ1.5:75−100マイル走るEV:クレジット2.5点/台
・タイプ2:100−200マイル走るEV:クレジット3点/台
・タイプ3:200マイルEV、あるいは、100マイルEVだが急速充電や水素補給が可能なタイプ:クレジット4点/台
・タイプ4:200マイルEVで急速充電や水素補給が可能:クレジット5点/台
・タイプ5:300マイルEVで急速充電や水素補給が可能:クレジット7点/台

B君:ちなみに、クレジットというのは、その車を導入した場合の効果に相当する点数で、点数によって、効果の異なるZEVの導入台数を平準化している。

A君:タイプ1がここではもっとも簡便なものですが、それでも、航続距離は50〜70マイルが必要。

B君:これ以下にタイプ0というものもあるにはある。これは短距離用で、クレジットが1点だし、また、本格的な対応には使えない。

C先生:そのあたりの車が、日本だとシティコミュータとして、丁度良い程度の車なのだが。米国と日本の大きな違い。

A君:それでは具体的な規制に行きますが、まずは、2009−2011年規制についてまとめます。

(1)まず、カリフォルニア州で、年間6万台以下の車を売っているメーカーは、若干簡易な対応でOK。
(2)この期間は、まだ予備的な期間だとも言えて、この3年分の導入義務量を1年で一気に実行することも可能。
(3)この期間での義務量は11%である。すなわち、販売した車の11%をZEVもしくは、それに関連する車にする必要がある。(4)2つの対応の仕方がある。

 その1:2003−2005年の平均年間販売台数の0.82%のZEVを導入するという方法。
 例えば、あるメーカーの過去の平均年間販売量が10万台だったとする。0.82%は820台だから、この台数のZEVを販売する。

 その2:10万台の車を売ったとする。11%が義務だから、本来なら11000台分(クレジット分)のZEVを導入する必要がある。しかし、この期間のZEVについては、全メーカーが市場占拠率に比例して2500台分のタイプ3のZEVに相当するクレジット分を分担することを義務とすればよい、と変更されている。このタイプ3のZEVは、クレジット/台が別途決められていて、その値が4なので、全メーカーで、10000クレジット分のZEVを販売すれば良いことを意味する。
 例えば、あるメーカーが10万台の車を売って、市場シェアが15%だったとする。全メーカーで1万クレジット分のZEVを販売する必要があるが、このメーカーの市場シェアは15%ということなので、1500クレジット分で良い。もしもタイプ3を売るのなら、375台で良いことになる。さらに早期導入の係数が適応可能だとすると、300台でよい。この台数は絶対に満たさなければならない数値である。
 このメーカーは、11%分のクレジットに相当するZEVを販売する義務がある。すなわち、11,000である。2009〜2011年までの期間であれば、残りをAT-PZEVとPZEVで満たすのだが、そのとき、11%の6%分は、PZEVで満たしても良い。
 となると、すでに考えた1500クレジット分(タイプ3なら300〜375台分のZEV)を含め、
・1500クレジット分のZEV
  具体的には300台ちょっとの電気自動車
・3500クレジット分のAT-PZEV
  具体的には5000〜7000台のハイブリッド車
・6000クレジット分のPZEV
  超クリーン排出ガス車
・これで合計11000クレジット。
を販売すれば良いことになる。


B君:対応法に2種類あるということだが、どちらが簡単か、それはメーカーによるだろう。
 なぜならば、AT-PZEVの主力になると思われるハイブリッド車にも、次のような区分があるのだ。

ハイブリッド車の分類
・タイプC:追加クレジット0.2:モータ10kW以上、駆動電圧60V以下=現存しない?
・タイプD:追加クレジット0.4:モータ10kW以上、駆動電圧60V以上=ホンダ・インサイトタイプ
・タイプE:追加クレジット0.5:モータ50kW以上、駆動電圧60V以上=トヨタ・プリウスタイプ

プリウスであれば、タイプEになるし、インサイトであれば、タイプDになる。それぞれのクレジットはプリウス0.5、インサイト0.4である。これ加点。


C先生:なかなか複雑だ。しかし、ここで再度確認しておきたいのは、10万台の車を販売したとしても、本当に売らなければならない電気自動車は375台(実は、さらに割引があり、300台で可能)とハイブリッド車など、もしくは、電気自動車だけなら820台(割引適用があれば、656台)で良いということだ。

A君:まあ大したことはない。ハイブリッド車があれば、300台の電気自動車だから、どうにでもなるとも言える。万一、ハイブリッド車を持たないのであれば、その倍ちょっとの電気自動車を売れば良い。

B君:日産が出すという「リーフ」は2010年に発売。5万台/年を生産するというから、この車だけで、全く問題無く、カリフォルニアZEV規制をクリアーできる。

A君:十分過ぎますね。100マイル航続距離があるタイプ3ですしね。

B君:むしろ、日産は、このリーフだけで、ZEV関係のすべての要求事項を満足させてしまおうと考えているのではないだろうか。この考え方は、相当リスクが高い。やはりリスクへの対処は、「リスク分散」が原理原則だ。

A君:もしそうだとすると。。。というより、2012−2014年の仕組みを説明しないと。

B君:生産台数が基準で、
・2009−2011:11%
・2012−2014:12%
となっているだけだから、実は、それほど違わないように見える。

A君:しかし、割引などが無くなってしまうので、本当に12%のZEV関連車を売らなければならない。
 しかし、本当にこの12%すべての純粋なZEVで満たす必要はない。

・0.79%:ZEVの最低必要量
・2.21%:Enhanced AT-PZEVの最低必要量
・3%   :AT-PZEVの最低必要量
・6%   :PZEV

こんな割合で良いことになっている。
もちろん、上位にある車種で、下位の車種を満たすことは可能。

B君:日産の場合、PZEVは有るわけだが、ハイブリッド車に相当するAT-PZEVが十分な量ない。米国だと、トヨタのハイブリッドコンポーネントを使ったアルティマ(日本だとティアナ相当?)が走っているが。

A君:プラグインハイブリッドも無い。となると、ZEVで0.79+2.21+3=6%の台数をカバーしなければならなくなる。

B君:10万台売ろうとすれば、6千台ですむ。もしもリーフが本当に5万台も作れるのであれば、全く問題はない。全米でカリフォルニアみたいなZEV規制が掛かったとしても問題はないように思える。

C先生:日産のリーフが本当にそれほど売れるのか。それが最大の問題だ。電池の寿命などをどう説明して買って貰うか。あるいは買って貰えるか。

A君:まあ、日産の戦略は分かりました。ホンダはどうでしょうか。

B君:ホンダは、燃料電池車FCVのクラリティーがある。しかし、やはり数億円の価格だろう。となると、やはり電気自動車が欲しい。ホンダは、ハイブリッドはあるが、プラグインハイブリッドをどうするのか、これがこれからの問題。

A君:まあ、そこは特許の問題が大きいかもしれません。三菱のiMievでは、エネルギー回生が利く電気ブレーキではないらしいのですが、それも、恐らくプリウスがらみでトヨタが特許化しているからなのでは。iMievでは、回生は、アクセルを離したときだけとか。

B君:プラグインになるようなハイブリッド車というものは、やはり電気モーターだけで走れるものが有利。カリフォルニア州のZEVで規定されているものは、難しくてよく分からないが。となると、ホンダは、この部分で、プリウスにがっちりと特許を押さえられているので苦戦になるだろう。

A君:もしもプラグインハイブリッド車が使えないとなると、その代わりは、電気自動車。10万台車を売るとして、790台の電気自動車と2210台のプラグインハイブリッド車を売る変わりに、3000台の電気自動車で対応しなければならない。

B君:ということで、ホンダは、トヨタの特許に触れないようなプラグインハイブリッド車の自製は難しいとみて、電気自動車の開発を真剣にやることにしたのではないだろうか

C先生:トヨタは、その意味では余裕なのだが、プラグインハイブリッド車ようの電池をどうするか、これが最大の課題かもしれない。日産は、一応、自製というかNEC、トーキンとの共同生産だが、トヨタは、パナとサンヨー頼み。

A君:電池を自製するのか、それとも外注なのか。コスト的には、自製が安いのだろうが、果たしてコストだけが問題なのか。

B君:スズキは、2.4リットル級のハイブリッド車を米国で売るとか。それがどうもGMの技術らしいという話もある。

C先生:果たして、GMの技術で、本当に作れるのだろうか。燃費が2割改善されるというが、余りにも少ない改善率ではないか。

A君:ちょっと調べたら、すでにGMのハイブリッドというシステムはあって、36Vのニッケル水素電池とわずか3kWのモーターで動くらしい。10−20%ぐらいの燃費の節約にはなると言うことですね。

B君:3代目プリウスのモーターが650V、60kWですから。1/20しかないわけで、これでは本格的なハイブリッドとはとても言えない。

A君:昔あったクラウン・マイルドハイブリッドという車の仕様と近いのでは。燃費改善効果はほとんど無かった。

C先生:やはりGMは、ボルトなるシリーズ型のハイブリッド車か。しかし、熱効率的にみて、シリーズ型のハイブリッド車は、余りメリットがない。電気自動車として走っている場合には、問題はないが。

A君:やはり、C先生の提案のように、電気自動車に、必要時には、充電ユニットをトレーラー型で連結するというのがもっとも効率的。

B君:フォードは、現時点でもエクスプローラというハイブリッド車を売っている。これは、トヨタのハイブリッドコンポーネントを使っているものだと思われる。

C先生:カリフォルニア州の教本の最後に、現在開発中のZEVなどの情報が出ている。付録に示すようなものだが、フォードは、やはりトヨタ型のプラグインハイブリッドを考えているようだ。また、電気自動車も、提案がある。

A君:いずれにしても、全世界の自動車メーカーが、カリフォルニア州で車を販売しようとしたら、それなりの戦略を持たなければならない。

B君:理想的には、トヨタ的な全方位対応だ。日産のような電気自動車特化の対応は、かなりリスクが高いものと思われる。

C先生:2012年からどのようになるか、それがなかなかの見物だ。今後とも、相当な動きがあることだろう。



付録:

表:現時点で米国での販売が計画されているZEV車、Enhanced AT-PZEV車、AT-PZEV車と想定されるクレジット

ZEV
燃料電池車

・ホンダ・クラリティー 300+
=TypeV型ZEV 7クレジット/台
・メルセデス・BクラスFCV 300+
=TypeV型ZEV 7クレジット/台

ZEV
電気自動車

・テスラ・ロードスター 200+マイル
=TypeW型ZEV 5クレジット/台
・BMW・ミニE  100+マイル
=TypeV型ZEV 4クレジット/台
・三菱・iMiev 75マイル
=TypeT.5型ZEV 2.5クレジット/台
・トヨタ・EV ??
=???
・日産・リーフ 100マイル
=TypeU型ZEV 3クレジット/台
・フォード・トランシット コネクト 100マイル
=TypeU型ZEV 3クレジット/台
・スマート 100マイル
=TypeU型ZEV 3クレジット/台
・クライスラー ??
=??


Enhanced AT-PZEV車
プラグインシリーズ型ハイブリッド

・シボレー・ボルト プラグイン:40マイルまで電気のみで走行可能
=1.35クレジット/台?
・ジャガー・XJ  プラグイン:30マイルまで電気のみで走行可能
=1.094クレジット/台?


Enhanced AT-PZEV
プラグインストロング型ハイブリッド

・フォード・エスケーププラグイン 10−20マイルまで電気のみで走行可能
=0.95クレジット/台(09−11)
=0.9クレジット/台(12−14)?
・トヨタ・プラグインプリウス 10−20マイルまで電気電気のみで走行可能
=0.95クレジット/台(09−11)
=0.9クレジット/台(12−14)?


AT-PZEV ハイブリッド車
・トヨタ・プリウス
タイプEに相当:追加クレジット0.5
・ホンダ・シビックハイブリッド
タイプDに相当:追加クレジット0.4
・ホンダ・インサイト
タイプDに相当:追加クレジット0.4
・GM/スズキのハイブリッド
タイプBに相当:追加クレジット0か?