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     水素燃料電池車が必要な本当の理由 
  12.14.2014
                 カリフォルニア州のZEV規制




 トヨタのMIRAIに引き続き、ホンダもFCVの2015年の市販を目指すとのこと。どうやら、日産も追いかける予定のようです。

 それには、大きな理由があります。米国の自動車市場対策。といっても、その実体は、米国での最大の自動車市場であるカリフォルニア州にあります。現在でも、ZEV(Zero Emission Vehicle)規制があるため、一定程度のZEVを販売する義務があります。もしも、この条件を満たせないと、罰金を払うか、あるいは、他のメーカーからクレジットを買わなければならなりません。しかも、罰金は高いのです。

 テスラという車メーカーが存在できている大きな理由の一つが、実は、このZEV規制であるという解釈もできます。多少古いデータのようですが、テスラが発表した2013年度1月〜3月期の決算によれば、他社へのZEVクレジットの販売によって、全体の12%にあたる6800万ドルの売上を得ていたということです。
http://wired.jp/2013/05/14/tesla-profit-q1-2013/

 そして、このZEV規制が、2018年モデル(実際には2017年8月ごろから販売される新車)から変わるというので、大変な騒ぎです。

 そもそも、ZEV規制を決めているのはどこなのか。それは、カリフォルニア州政府の一部であるARB(Air Resources Board)という部署です。その最新版のレポートがあるようなので、そのご紹介をしてみたいと思います。
http://www.arb.ca.gov/regact/2014/zev2014/zev14isor.pdf



C先生:トヨタMIRAIの発売が話題になっているが、その存在理由をもう少々掘り下げるためには、米国、特に、カリフォルニア州の排出規制と、ZEVというものについて知る必要がある。そこで、この報告書に基づいて、もう少々深堀りをすることにしたい。

A君:了解です。まずは、ZEV規制の歴史あたりから行きます。

ZEV規制の歴史

 ZEV規制が始まったのは、1990年のことである。カルフォルニア州はガソリンの最大の消費地であり、US−EPAは、カリフォルニアを、大気中のオゾン規制がほとんど守られていない地域に分類したからである。普通の言葉で言えば、スモッグ・光化学スモッグである。
 それ以後、自動車メーカーの排気ガス対策は格段の進歩を遂げた。しかし、カリフォルニア州は、2040〜2050年には、完全なZero Emission Vehicle(ZEV)がほぼ100%になることを目指している。そして、州全体からの温室効果ガスの排出を2050年には80%削減するという目標も持っている。


A君:大気汚染だけだった対象が、今は、温室効果ガスの排出削減をも考えているということです。

B君:ちょっと待った。2050年に温室効果ガスの排出量を80%削減するという目標は、2007年に第一次安倍内閣が言い出して、G8全体の目標になった。これを実現するために、カリフォルニア州が頑張っているということなんだ。

A君:まあ、そうみたいですね。


ZEV規制の将来規制

A君:2012年の1月に、排気ガス対策と温室効果ガス削減のために、ARBはACC(Advanced Clean Cars)プログラムを決定した。このプログラムは、2015年〜2025年までの要求項目を決めています。その中で、LEVV(Low-emission Vehicle 3)規制、ZEV規制、そして、CFO(Clean Fuels Outlet)を決めるものでしたが、結果として、CFOの決定は見送られました。

 そして、今後2018年以降のモデルに要求されることですが、重要なことは、ZEVの定義が変わっていることです。(1)ZEVとは、バッテリーのみで駆動されるBEV(Battery EV=電気自動車)とFCEV(=燃料電池車)のみに、そして、(2)TZEV(Transient ZEV=プラグインハイブリッド車を意味する)は別ジャンルになり、(3)これまでZEVの一つとして認められてきた通常のハイブリッド車(HEV,HV)は、その定義から外れることになりました。

 現状、LVM(Large volume manufacturers)であるクライスラー、フォード、GM、ホンダ、日産、トヨタは、一定量のZEVを販売するか、あるいは、クレジットを買い込むことが強制されています。この基本的な枠組みは、2018年モデル以降も変わりません。

B君:これは、HEV車を販売して、クレジットを稼いできたトヨタ、フォードなどにとっては大変なことだ。

A君:これまでは通常のHEVも勘定に入れることができたので、トヨタにとっては、楽々クリアー状態でした。もっとも何台かのHEVでZEV1台分という計算にはなるのですけど。

B君:トヨタは、このZEV規制で困ったことはなかった。米国では、RAV4のEVを売ってはいたが、余り本気ではなかったのだ。

A君:そうなんですよね。ところが、2018年からは、恐らく大変なことになる。しかし、大規模メーカーだけではないのですよ。中規模メーカーにとっても大変なんです。


2018年からの大規模メーカーに

A君:2018年からは、BMW、Hyndai、Kia、Mercedes-Benz、Volkswagenも、販売台数制限値が下げられたために、LVMに変わることになります。
 中規模自動車メーカーに対する規制は、4501〜6万台の新車をカリフォルニア州で販売するメーカーを意味していましたが、変更されて、LVMの適用範囲を年間2万台以上に引き下げることでになりました。

B君:すなわち、販売数で稼いで来なかったMercedesなども一定程度のZEVを販売することを義務化されるということか。これら5社にとっては痛いことだろう。Hyndai、Kiaは、準備ができるのだろうか。

A君:そのため、Mercedesなども、水素燃料電池車の販売をすることになるでしょう。カリフォルニア州では、やはり走行距離が長いので、純粋のEVではなかなか役に立ちませんから。

B君:BMWのi3のような、基本は電気自動車だけれど、エクステンダーを搭載した自動車は、これならカリフォルニア州でもそこそこ実用的だとは思うけれど、残念ながら、TZEVという扱いになってしまう。

A君:TZEVというジャンルでも、そのような車種を持っているか居ないかで、大変なことになるのです。ということで先に行きます。


2018年以降も中規模メーカー

A君:これまでと同様に、IVMのジャンルに留まると考えられるJaguar、Land Rover、Mazda、Mitsubishi、Subaru、Volvoは、やはりZEVの要求を満たさなければならないが、そのすべての義務をTZEV=PHEVで満たすことも許されます。

B君:待てよ。JaguarにPHEVなどはあったけ。無いよな。Mitsubishiだけではないか。今、PHEVを売っているのは。

A君:MazdaもSubaruも、米国市場で車を売ろうと思ったら、やはりカリフォルニア州を無視するのは難しい。となれば、PHEVをしっかりと開発する必要に迫られことになります。

B君:そうだな。そう言えば、これまで名前が出てきた自動車メーカーは、米国、日本、ドイツ、韓国だけで、フランス車、イタリア車がなにも無い。当然かもしれないが、スペイン車、チェコ車なども無い。

A君:そうなんです。こんな記述になっています。


2018年以降PZEVは消滅

 これまでのPZEV(=Partial Zero Emission Allowance Vehicle)という枠組みは、IVMの困難さを多少とも緩和するために存在していた。しかし、現在の枠組みは、2018年以降の車に対しては無くなる。IVMは、むしろ、PZEVを止めて、TZEVを開発するという厳しい選択を強いられることになる。もしもTZEVを開発したとしても、2025年には、40%以上をTZEVにしなければならないというさらに厳しいハードルにチャレンジしなければならない。

A君:これまでは、PZEV(=Partial Zero Emission Allowance Vehicle)というジャンルがあって、ガソリン車、ディーゼル車、といったものでも、スモッグの発生を極限まで抑えていると認められれば、ここに入ることができて、その何%かをZEVの計算に入れることができたのですが、これは無くなってしまうのです。となると、2018年以降は、カリフォルニア州での販売を諦めることになるのでしょうね。ルノーなどだと、テスラ社からクレジットを買い取るということは見合わないだろうから。

B君:短距離用のEVは開発コストが低いけれど、誰かが買ってくれるか、となるとなかなか難しい。

A君:2018年になると、リーフなどのBEVもすでに時代遅れ。それまでに日産製の燃料電池車ができれば、それをルノーブランドで売るという方法も無い訳ではないですが。どうするのでしょうね。

B君:そんな方法をゴーンさんが考えるだろうか。あるいは、ルノーブランドのBEVを作って、IVMかLVMを目指すのか。むしろ、カリフォルニア州内での年間販売台数が4500台以下ならばZEV規制外になるから、その範囲内に限定し、ルノーの輸出先を、ほぼ途上国向けの車に限定するような気がする。

A君:さて、そろそろ最後の情報になりますが、どのぐらいの台数をZEVにしなければならないのか。次に示すTable2は、2018年から2026年以降までに満たすべきLVMに対するZEVとTZEVの台数のパーセントと、IVMに対するTZEV+1/5ZEVという満たすべき条件を示しています。

 例えば、2018年には、LVMは最低でも2%のZEVと最大でも2.5%のTZEVを加えた台数が、全販売量の4.5%という条件を満たさなければならない。

 IVMは、TZEV2.5%とLVMのZEVのクレジットである2%という数値の1/5を加えた2.9%をトータルクレジットとして満足させる必要がある。しかし、この数値を満足するのに、そのすべてをTZEVで満たしても構わない。


 筆者注:右下の22という数値はミスプリと思われる。正しくは9.2。


どのような対応がベストなのか

A君:これで、報告書の紹介は一応終わりです。

B君:LVMだが、まずは、2018年モデルで、2%をZEVにしなければならない。カリフォルニア州の住民の環境意識がいかに高いからといっても、今の価格で水素燃料電池車が2%も売れるものだろうか

A君:やはり、水素のお値段次第ではないですかね。しかし、2018年モデルといっても、あっという間に来ますからね。

B君:州政府がどのぐらい水素のお値段に対して優遇をするかということだろうか。しかし、先週の記事のように、水素ステーションによって、水素のカーボンフットプリントが違ってくる。どんな水素でも良いというものではない。

A君:カリフォルニアであれば、もっとも安いものが、天然ガスから製造した水素になるでしょう。石炭から水素を作ることは、さすがにカリフォルニア州で認められるとも思えないので。

B君:もともとカリフォルニア州の大気規制が厳しい理由は、スモッグ、すなわち、大気汚染なので、温室効果ガスに対して、それほどの関心があるか、という疑問もあるのだ。いざとなれば、水素ならなんでもよい、という政治的な決着が行われる可能性も無いとは言えない。

A君:スモッグであれば、原因物質としては、粒子状物質PMでしょうね。その生成には、オゾンなども関わりますが。純粋のCOであれば、スモッグには大きな影響はないのは確かです。

B君:カリフォルニア州は、原発反対の傾向が強いみたいなのだ。ということは、やはり気候変動よりも、短期的な大気汚染の悪影響を問題にしている可能性が高いとも言えるかもしれない。

A君:しかし、このところの降水量の減少と山火事の増大などが、気候変動のためだと考えると、温室効果ガスの排出にも徐々に重点が移るという可能性も無い訳ではないですね。しばらく注目でしょうか。山火事も大気の質を悪化させる大きな原因ですから。

C先生:カリフォルニア州の自動車排気ガス対策は、歴史的にかなり先進的だった。水素ステーションを最初に実用化しようとしたのも、カリフォルニアだった。この愛知県の報告書によれば、
http://www.pref.aichi.jp/ricchitsusho/gaikoku/SF201311report.pdf
2022年までに、全燃料消費量の26%を代替燃料に切り替えることを目指して、ドライバーの利便性の高い場所に水素ステーションの整備を行う計画を作っているようだ。

A君:調査によれば、カリフォルニア住民は、水素ステーションまでの運転時間が6分以内ならOKと考えている人が多いらしいです。

B君:6分間か。4〜5kmぐらいということだろうか。これは大変だ。計画の2015年までに、州内で68ヶ所の水素ステーションを整備するというぐらいでは、全くダメだな。

C先生:そうだろう。特に、州内全部を対象としたら絶対的に無理だ。しかし、どうやら、サンタモニカ/西ロスアンゼルス、南オレンジ郡、トーランスと沿岸地域、バークレー、サンフランシスコ湾岸地域、という5つのクラスターを作って、ここに45ヶ所のステーションを整備する。そして、主要な観光地をカバーするために、23ヶ所を追加で整備するという計画のようだ。

A君:しかし、地図を見ると、国立公園などがあるシェラネバダ山脈には、何もない

B君:水素燃料電池車が、満タンで500km以上走れるといっても、これでは大変に不安。ガソリンであれば、ガソリン缶を積むといった方法があったのだけれど、水素ではさすがにそれはない。

A君:水素ステーション建設と、ステーションへの水素供給ネットワークの整備コストがどうなるか、それは大問題ですが、オール自然エネルギーの水素ステーションであれば、全く、インフラに依存しませんので、僻地でも作ることが不可能ではないのです。太陽電池と風力による電気で、水を電気分解して水素を作り、かつ、高圧にして貯めることも可能。しかも、できる水素の環境性能は最高ですね。

B君:ただし、相当の設備費が掛かる。水素の販売単価にたいして、相当の補助が必要だろう。

C先生:そのあたりの実現がどうなるのか、それには、やはり100万台ぐらいの水素燃料電池車が普及してからになるのではないだろうか。水素ステーションといっても、その投資はそれほど安くない。もしもオール自然エネルギーとなると、そのための投資も大変なことになるので。
 最後に、カリフォルニア州のZEV規制について不合理だと思える点があれば指摘して欲しい。

A君:前回の記事、「水素ステーションの優劣」http://www.yasuienv.net/H2Station.htm
で述べたように、天然ガスから作った水素だと、環境負荷は、HEVには勝てても、PHEVには勝てない。この事実が十分に考慮されていない。

B君:EVは、環境負荷の面では、確かに問題はないが、究極的な環境負荷を目指すのであれば、自然エネルギーからの水素を供給しなければならない。

A君:それに、使用者の利便性が十分考慮されているかどうかですね。今回の規制プランによれば、2025年にBEVかFCVを16%のユーザに押し付ける訳ですよね。FCVであれば水素ステーションの整備が本当にできるのかどうかが問題。BEVについては、充電時間が長く使いにくい、という本質的欠陥に対する配慮がやや欠けていると思います。

B君:水素ステーションの整備については、カリフォルニア州の責任だと言うことができても、BEVの本質的欠陥については、それを十分に理解してシティコミュータ的な車として買う消費者ばかりだろうか。

A君:テスラの車は週末に長距離ドライブにでたら、夜間に充電しても月曜日に使える電気は半分以下という車なので、400Vの電気が充電に使えるカリフォルニアでも、本質的に金持ちの3台目の車。

B君:ZEV規制の効果を最大限高めようとするのなら、ZEVとTZEVの間に、レンジエクステンダー付きのEV、電池容量の大きなPHEVで、その車の生涯走行距離の85%以上をBEVとして走る車というジャンルを設定して、このような車は、税制などで優遇するという制度が必要なのではないか。その車の実走行距離のうち、BEVとして何%走ったかをビッグデータとしてチェックできるシステムを構築し、減税の対象にするかどうかを判定するというシステムが良いように思う。インチキを防止するのなら、G2V(Grid to Vehicle)での充電量とガソリンの補給量も、同時に報告できるような設備を搭載すれば良い。

A君:日本なら自動車税が高いから、ある程度の強制力が期待できるけれど、カリフォルニア州の自動車税はどうなっているのだろう。

B君:どうやら取得時に連邦税と州税がかかるようで、カリフォルニア州ができることは州税の免除ぐらいかな。それに登録料が年間100ドルぐらいらしい。

A君:もしも、EV走行が85%という条件を満たさなくなった段階で、免除されていた州税を払えといえばどうでしょう。でも、1000〜1500ドルぐらいの金額では、余り実効性はないかもしれないですね。

C先生:そろそろ結論にしよう。
 何はともあれ、「カリフォルニア州が車の将来の方向性を決めている」と言えるのだ。カリフォルニア州のZEVに対応しなければならない合計11社と、TZEVには最低でも対応しなければならない6社がどのような開発戦略を作るのか、それがなかなか見ものなのだ。
 トヨタは、早くも水素燃料電池車に焦点を定めたが、その理由は当然で、電気自動車では、ZEVを満たしたとしても、テスラ社の車のように大量の電池を搭載することになってしまって、日本の高々200Vの電力事情では、充電に丸2日以上かかるような車になって、日本市場でどうしようもない。米国専用大容量EVモデルを作るよりは、インパクトの強いFCVだ、と考えたのだろう。
 TZEV、すなわち、PHVにしても、現在のプリウスPHVのタイプが良いのか、それともBMWi3やホンダアコードPHVのようなタイプが良いのか、これもカリフォルニアを考えると、両方共用意すべきなのかもしれない。なぜならば、短距離重視のお客には、BMWタイプが利便性が良くて、長距離ドライブを重視するならば、プリウスPHVが良いという結論になる。すなわち、二種類の客がいるように思えるのだ。
 さて、結論だ。カリフォルニア州をそれなりに偉いとも言えるけれど、一方で、世界の自動車メーカーから、勘弁して欲しいと言われている州でもあるのだ。これまでのメーカー対カリフォルニア州の戦いの実績では、州民の支持を得て、カリフォルニア州の圧勝なのだが、今後の2018年規制が最終的にどのような形になるか、それは大いなる見ものなのだ。