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   脱炭素イノベーション加速  01.04.2021
       
保守派から大転換派まで意見は多様



 菅首相が「2050年のCOゼロ」を宣言してから、保守的な日本社会も、明らかに変わった。何が変わったのか、と言えば、化石燃料重視の保守的論調がかなり消えた。これまでも先進的な発言をする人もいたのは事実。しかし、日本の産業界の多くは、従来の方向性を維持することが、経済的なメリットを意味するという考え方から抜け出られなかった。その一つの理由は、日本の金融界未来を見る余裕がない状況だったからではないだろうか。
 一方、米国の資産運用最大手の
ブラックロックの副会長であるヒルデブラント氏の見解が昨年末29日に、日経に掲載された。その主張は非常に重要なポイントを突いている。米国の金融関係者の意識は、日本の金融界を5年以上先行したものなのではないか。
 その前日28日には、日本のエネルギー関係の大御所である
茅陽一先生と山口光恒先生の「CO地中貯留」に関する記事がやはり日経に掲載された。この記事は日本国内でのCO2処理に話題が限られていて、いささか保守的だなという感想を持ったが、1月1日の日経には、なんとDAC(Direct Air Capture)の写真が第1面の最上部に掲載された。首相のCOゼロの主張がでなければ、日経が1月1日の1面にこの写真を掲載することも、恐らく無かったのではないだろうか。

C先生:やっとのことで、日本も世界の標準に追いつこうしはじめているようだ。これまで、CO
ゼロを目指すことを日本の産業界は嫌がってきたと思うけれど、実は、あのトランプの米国の金融界ですら、「COゼロと言わない企業には投資はしない」、という方向性が強くなっている。その先頭を切っているのが、資産運用会社のブラックロックかもしれない。なぜこのような対応が、社会的にも人気になるのか、ということを推定すれば、発想が保守的で現状維持を主張する企業は、もはや、その寿命が大幅に限られていることが明らかだからだ。したがって、現状維持のみが経営哲学である企業への投資は単に危険でしかないからなのだ。

A君:ブラックロックの名前が出てきましたから、日経に掲載された
副会長のヒルデブランド氏の主張をまとめてみますか。

B君:了解。
2020年の年初に、ブラックロックの会長ラリー・フィンク氏は、投資先企業のトップに宛てた書簡で、「想像以上に速いスピードで大規模な資本の再配分が起き、金融の根本的な見直しにつながる」と主張した。

A君:この文章に続いて、
「気候変動対応などに取り組むと、運用成績が悪化しかねないと考えられてきたが、研究の蓄積の結果、こうした要素と取り組むことで、投資側の成績の向上につながると確信した」

B君:そのような主張をする
根拠は、「気候変動が経済活動の打撃となり、金融資産の価値に影響を与える大きなリスク」だからだそうだ。

A君:このような話は、我々のサイトでもしばしば主張していますが、例えば、
アメリカカルフォルニアの大規模な山火事で多くの家屋が焼失したこと、あるいは、オーストラリアで群発する森林火災がありました。それに加え、日本でも九州などでの集中豪雨などが、地球温暖化によって加速されているということ、これらが科学的に証明可能だからです。

B君:さらに、CO
ゼロに必要な技術とはどのようなものか、といった記事も、本webにて、11月15日などにアップした。

A君:その副タイトルが、「CO
ゼロ技術も『実現には高いハードルがある』」。

B君:それも当たり前。化石燃料がエネルギー源であれば、CO
は出るに決まっている。そもそも、地球が過去の植物などを地下で変性した化石燃料は、備蓄性が非常に良いのは当たり前で、充分な量を備蓄し、少しずつ使うことが可能だ。

A君:ところが
電気のみをエネルギー源とすることを考えると、家庭やオフィス、あるいは工場で、電気を貯めようとすれば、電池しか方法がない。勿論、大規模にやろうと思えば、揚水発電のように、大量の水を高いところにある貯水池に組み上げておくとか、重い錘を高速回転させてエネルギーを貯留するような方法論も無い訳ではないが、それには、非常に大規模な設備が不可欠。

B君:
家庭用電池も実用に近い状況にはなっているけれど、価格はまだ100万円弱程度。しかも、その設置が大変なんだ。大型で重いので恐らく、2階には設置不能だと思う。

C先生:ちょっと話が脱線しているようだ。
本日の本当の中心的課題は、茅陽一先生と山口光恒先生の写真が載った日経の12月28日号p13の記事にしたいのだ。具体的には、その記事を読んで、議論したい。

A君:それでは、内容をちょっとまとめてみます。
温室効果ガス実質ゼロの論点 上巻ということで、今回の主張は、『「地中貯留」促進へ官民組織を』

B君:
地中貯留とは、大気中に排出されるはずのCOをなんらかの方法で、排出される前に捕獲。そして、COを地下に埋め込むこと

A君:しかし、
問題は、いくつもあって、まず、COをどうやったら効率的・経済的に捕獲できるか。そして、それを地下に埋めるとしても、どのように安定に埋めることができるのか。埋めたCOがそのうち出てきたらなんにもならないので。

B君:CO
の捕獲だけれど、例えば、ガソリンの組成は、炭素数4〜12ぐらいの炭化水素だけれど、まあ、オクタン価と言う言葉は一般的に良く知られていると思うので、オクタンで代表して、平均炭素数は8だとして、分子式としては、C818で近似する。これが燃えると、CO2が8分子、H2Oが9分子できる。C818の分子量は114なので、仮に114gのガソリンを燃やすとする。発生するCO2は352gと計算できる。40リットルのガソリンタンクの車がガソリンすべてを燃やせば、ガソリンの比重を0.74として、29.5kgのCO2が発生

A君:CCSと言われる方法論で、CO
を捕獲して(=Carbon Capture)、どこか地下などに埋める(=Storage)。そもそも、COの捕獲・分離はどうやるのか、というと、実は、色々と方法があって、(1)固体吸着剤に吸着して分離、(2)吸収液に化学的に溶解させる、(3)吸収液に高圧のCOを物理的に吸着、(4)COだけを透過する膜で分離、(5)極低温で液化し、沸点の違いで分ける(深冷分離法)、などがある。

B君:
いずれのプロセスも結構コストがかかる。しかも、日本では、分離したCOをしまい込むのに適した地下構造、例えば、古い油田(石油をほぼすべて汲み上げた後)などは無いので、海底などの地層に貯留することになるけれど、やっかいなことに、もし漏れたときには、COを水と結合した分子の比重は、充分に重くはないので、浮き上がる傾向がある。

A君:一方、北米の大地には現在のCO
発生量で、900年分以上を貯蔵する十分な容量があるとのこと。

B君:CCSによるStorage(貯留)は、日本で実施するのはかなり難しいのではないか。作業も複雑になりそうだし、安定に貯留できそうもない。しかも、地震の影響をどのようにして防ぐことができるか。

A君:しかも、
日本でのCCSのコストは、COを1トン処理するのに、1万円ぐらい掛かるのではないですか。なんだ、その記事にも同じ価格が書かれている。

B君:むしろ、
DACを海外に建設して、そこで、COを吸収して(日本から放出されたCO2とする)、元油田などへの地下処理を適切にすることができれば、漏れないことが確実なので、より現実的なのでは。勿論、コストは多少高いかもしれないが。

A君:
DACの説明を一応。Direct Air Captureの頭文字で、大気中から、いきなりCO2を採取する方法。エネルギーコストが必要なコストの大部分なので、砂漠などで太陽電池を活用すれば、2円/kWh程度の電力の使用が不可能ではないですね。

B君:当然のことながら、
日本にはDACの適地はない。適地の条件は2つ。最初の条件は、指摘されたように、太陽電池の発電量が多いところ。できるだけ赤道近くで、そして、雨の降らない砂漠が良い。もう一つの条件が、CO2を地下に保存するために、石油の産出が終わった元油田があるところ。その理由は、古い油田にCOを注入すれば、地下に安定に存在できて、COが外にでてくる可能性が大幅に減るから。となると最良の候補地はアラビア半島かな。それ以外の候補も無いとは言えないが。

C先生:
茅先生のDACに関する未来的イメージでは、やはり、国内で発生したCOの処理は、日本でやるべきという原理原則があるという前提なのではないだろうか。しかし、砂漠地帯で、石油が過去に産出したしたところなどは、経済的な価値がかなり低い土地なので、そこに、DACを設置すると言えば、比較的楽に受け入れてくれるのではないかと思うのだ。当然、土地の利用料金が入るし、雇用もある程度は期待できる。一方、日本ですべをやれば、A君がすでに述べたように、COを1トン処理するのに1万円ぐらい掛かる。しかも、日本でのCOへの安定した保存を実現するのは、地震などもあって、かなり難しい。すなわち、処理費が高い上に、不安定な処理になる。その不安定さが加速的に増大して、もし、貯留したCOが排出されてしまったら、それなりの排出権を高いお金で購入しなければならなくなるだろう。どう考えても、海底へではなく、安定な地中への貯留が最大の必要条件のように思えるのだ。

A君:確かに、
世界的に見れば、適地はいくらでもありそうですね。日本政府が早く動いて確保しないと、そのうち、そのような土地の価格が高騰するのが目に見えるようですね。

B君:いずれにしても、
CO安定処理という案件に関しても、日本という国土は不利だなあ。どう対応すべきか、と言えば、地球全体を見渡して、最良解を探し求める、としか言いようがないね。

C先生:さて、本日はそんなところか。何回も言っているが、
菅首相が2050年には、COネットゼロを実現したい、と発言したのが、10月26日の施政方針演説だった。それから1ヶ月余が経過したが、やはり、「首相が何か言う」ということは、普通の大臣が何かをいうこととは、これほど違うのだ、というぐらいの社会が動きが始まった。その最たるものが、実は、新聞記事のトーンが変わったことではないか、と思う。これまで、なんとも保守的な記事ばかりだと思っていたが、それが、米ブラックロック社の副会長の先進的なコメントが掲載されたり、さらに、この1月には、バイデン次期大統領の経済チームに、ブラックロックから幹部2名が入るというような情報が出るようにもなった。
 まあ、日本の動きを含めて、世界の今の動きを表現するとすれば、
「COゼロ」に向けて、自分は何ができるかをしっかりと発言しないと、政府メンバー、企業経営者、などなどが、その職務を果たすことができない時代に、急にパタッと切り替わってしまった、と言えるだろう。トランプ大統領がパリ協定から離脱した米国ですら、上述のような変化が急激に起きているのは、非常に面白い米国のトランプの熱狂的支持者のマインドは、どうみても、すでに時代遅れになり、金融界の重要な人物が、オピニオンリーダーになったと言えるのではないか。
 ところで、日本の金融界の重要人物で、今後、オピニオンリーダーになる人は、誰なのだろう。どなたか、教えていただきたい。
 それとも、
日本には、オピニオンリーダーは不要ということかもしれない。なぜなら、1月4日の日経の5面(=企業面)に、アサヒグループホールディングス(GHD)は、欧州の工場での電力を再生可能電力に切り替え、残っていたポーランドでも21年中に切り替えるとのことだ。企業のポリシーが代わって来ているように思えるのだ。
 要するに、日本の場合だと、企業の意思決定は幹部全員での合意で行われて、個人の意見で方向性が決まるという国ではないのかもしれない。それなら、それを推し進めれば良いだけだろうね。