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     続・カーボンゼロ加速   01.17.2021
       
日経「第4の革命」の続き、その最終回



 日経の1面の連載記事であった「第4の革命 カーボンゼロ」が1月13日(水)に完結した。結局、10回連続の記事であったが、最近の技術の社会的状況を適切にまとめた記事であったと思われる。
 
第9回目(1月12日)の記事が、「生命線の蓄電池:『リチウムの次』の先陣争い」、そして、第10回(1月13日)の記事が、「賢い財政 成長を左右」であった。
 いずれの記事も、やや間接にではあるが、
日本政府の財政的な対応のまずさを指摘していたように読める。やはり、現時点で、日本国内の企業意識の底流には、「現在のシステムを継続することが、もっとも経済的に有利であり、新しい技術などの導入はできるだけ延期したい」という思いが脈々と流れているのは事実であろう。しかし、それでは、日本という国は、未来永劫、負け続ける国になってしまうことが確実である。
 最終回には、バイデン次期大統領が取り上げられている。
トランプ大統領は、パリ協定から離脱したように、地球レベルでの必要な対応をすべて無視していた。その実態をもう一度解析し理解する必要がある。


C先生:今回は、何はともあれ、日経の
「第4の革命・カーボンゼロ」の9回目、10回目を取り上げて、内容を紹介しよう。そして、場合によっては、考慮する範囲を拡大しながら、できるだけ多様な観点から、「第4の革命」の実態を探って行こう。

A君:了解です。それでは、第4の革命の9回目のご紹介から行きます。
 
米国のアマゾン・ドット・コムが「カーボンゼロ経済圏づくりに第一歩を踏み出した」で始まります。

B君:まずは
アマゾン自身の取り組みだけれど、「2040年までに二酸化炭素を実質ゼロ」をジェフ・ベゾスCEOが公約。先進的な国々でも、2050年がやっとなので、この宣言は、10年早いと言える。勿論、いくらアマゾンでも、ハードルは高い売上高が2割程度増えた2019年、輸送用トラックやクラウド用のサーバーの強化でCO排出量が15%増加した。

A君:そこで、
具体的な対応としては、まず、「2025年にも再生可能エネルギー100%を実現する」。そして、電動の配達車を10万台導入する。

B君:日本では、そんな実例は無いだろうと思われるかもしれないけれど、実は、存在している。いや、存在していた、と過去形にすべきかもしれない。
その企業名は、「アスクル」。創始者の岩田彰一朗氏が恐らくその発案者だと思うけど、残念ながら、アスクルは、その後、ヤフー(ソフトバンクの子会社)やプラスといった企業に支配されてしまったので、環境対応ができる企業では無くなってしまった。

A君:詳細は知りませんが、その当時(2019年8月)のネットを調べると、色々な記事が出てきます。
アマゾンと同様に、即日配達する仕組みであるアスクルのロハコと呼ばれるものを止めたかった、という解釈も見つかります。

B君:確かに、記事が見つかるね。ロハコはどうやら非常に大きな赤字の原因だったらしい。となると、色々な解釈があっても当然のようにも思える。

A君:まあいずれにしても、
環境を第一と考える企業であったアスクルは実質的には消えてしまい、普通の会社になってしまった。

C先生:昔の
アスクルが消えてしまったとしたら、それは大変に残念なことだ。宅配用に電気自動車を大量導入するなど、かなり先進的な環境企業だったのだから。
 そろそろ、
本題に移行して欲しい

B君:了解です。第9稿はすでに紹介したように、
『生命線の「リチウムの次」先陣争い』でした。なぜ電池が重要なのか、と言えば、これまでの電力は、化石燃料を使った火力発電、あるいは、原子力発電が主力であった。ところが、火力発電は、CO大量発生の装置のようなものなので、もし、カーボンゼロを実現しようとすると、最初にストップさせなければならない対象であることが明白。

A君:そうなると、
自然エネルギーを主役として使うことになるけれど、太陽光発電は、当然のことながら、「晴天の昼間」は良いけれど、「雨天になったら頼りにならない」し、「夜になったら全くダメ」。

B君:
風力発電は、風が十分にあれば、夜にも動くから、これが主役になる。しかし、その「風が十分」という条件を常時満たす訳ではない。風が強すぎても困るし。

A君:
「風が十分」という条件を満たそうとすると、大量の風力発電機を設置して、例えば、ある地域の風がゼロであったら、風が吹いている地域で発電された電力を融通するような高能力の電力網が不可欠。これが日本には存在していないのが現状。そもそも、風況が良いところは、日本には少ないので、北海道あたりでの風力による電力を全面的に整備して、全国で使えるようにしなければならない。

B君:
秋田あたりも風況は良いけれど、そろそろ、陸上に立てるべき場所はすでに風車で埋まってしまった。秋田でも、最近は洋上風力ということになる。洋上だから困るということではないけれど、建設にも保守にもお金が掛かるのが難点。

A君:ここまでは本題ではなくてイントロ。
電力の最大の問題点は、化石燃料のような備蓄ができないこと。多少の蓄電であれば、電池でもできるけれど、大量の電力を電池に貯めようとすると、その量が大問題になる。それは電池は高価だし、寿命があるので。

B君:という訳で、カーボンゼロを実現するためには、未来型の電池というものが生命線になるのだ、ということが、「第4の革命」の9回目の主題だった訳。

C先生:
現時点で電池と言えば、リチウム電池。確かに高性能ではあるけれど、色々な問題点がある。その一つは、リチウムという元素の資源量が十分ではないので高価。現時点、リチウムは南米の塩湖あたりから採取することになる。もしもリチウムの兄弟であるナトリウムが使えれば、これは海水中に無限に存在している。したがって、現時点での状況は、と言えば、第4の革命の見出しのように「リチウムの次の先陣争い」ということになる。

A君:
2030年には、自動車がすべて電気自動車になるという仮説もあるぐらいですね。となると、リチウムの資源が大問題かもしれない。

B君:「第4の革命」の記事では、
食塩(NaCl)を溶融させて熱としてエネルギーを貯める方法が検討されているとのこと。

A君:ICEF(Innovation for Cool Earth Forum)でも、熱としてエネルギーを貯めるという方法がいくつも提案されていますね。

B君:そうそう。もっとも驚いたのは、
ドイツのシーメンスが、人工の岩山を作って、その岩や石に余剰となった電力を熱に変換して貯める。そして、電力が必要となったら、その熱でタービンを回して発電する方法。

A君:我々が、
なぜこの方法に驚いたかというと、エネルギーというものを貯めるときに、エネルギーの価値としては最下位に位置する熱に変えて貯めるという、いわば熱力学の根本原則に反する提案を、こともあろうにシーメンスが行ったから。

B君:まあ、もともとが余剰電力なので、それほど貴重な資源だとも思えない。特に、ドイツあたりであれば、風力発電の電力が余るといった状況はしばしばあるのではないだろうか。この電力、現状での理解は、「どうせ捨てるもの」なのだろう。さらに、太陽光発電からの不安定な電力が余ったという状況に、なにができるか、も考えるべきなんだろう。となると、
できるだけコストを掛けないで、いかにして、多少なりとも捨られるエネルギーを貯めるということに意義がある、という理解をすべきだったのだ。要するに、シーメンスの考え方には未来的妥当性があったのだ。

A君:そして、今回のカーボンゼロの記事では、塩、多分、食塩だと思うけれど、
余剰な電気を熱に変え、熱を食塩に貯める。溶けた塩には大量の熱が溜まるし、長期間貯めることも可能とのこと。

B君:食塩の溶ける温度は? 調べてみるとどうやら
融点は801℃とのこと。これは、確かに、相当高温なので、貯めることができるエネルギー量は極めて大きい

A君:そして、電気が必要となったら、熱から電気に戻すと記述されています。詳細は記述されていません。

B君:どんな方法で電気に戻すのだろう。調べてみよう。すぐに見つかった。日本での記事だ。エネルギー総合工学研究所が検討している。この記事は、2018年の10月だ。

A君:
溶融塩として保存しておいて、電力が必要になったら、溶融塩を熱源として蒸気を作ってタービンを回すようです。どうやら産学のコンソーシアムにょって、2018年度には、4億円ていどの規模での検討を始め、5年目には100MWh規模の蓄熱設備を作って実証運転を行うらしいです。

C先生:このエネルギー総合工学研究所では、エネルギーの熱による備蓄の研究を始めた研究者が居ることは知っていた。しかし、この溶融塩の話は知らなかった。

B君:蓄熱発電技術を経産省から受託しているのが、エネルギー総合工学研究所ということですね。確かに、熱でエネルギーの備蓄ができることは事実。

A君:しかし、
熱という形でエネルギーを保存する方法の価値がなぜ低いか、これも説明して置くべきですね。エネルギーには、多種類がある。電気エネルギー、位置エネルギー、運動エネルギー、熱エネルギー、力学的エネルギー、光エネルギーなどなど。どのエネルギーも熱に変えるのは簡単で、自然に起こすことができる。ということは、その逆は難しいので、熱の価値は低く評価される。

B君:
電気エネルギーは価値の高いエネルギーの典型例。それを電気のまま貯めるのが電池。しかし、電池による蓄エネルギーは、方法として、もっとも高価なものになるというのが常識。

A君:現状で電気エネルギーをもっとも効率的に貯めることができるのがリチウム電池。しかし、リチウム電池は高価。リチウムだけでなく、使われる元素、例えば、コバルトも高価。コバルトを鉄に置き換えれば、価格は大幅に下がるけど、性能も下がるのが通常。

B君:ということで、
熱でエネルギーの備蓄ができれば、それは便利ではある。しかし、熱を他のエネルギーに変換するときの効率が高いとは限らない。熱の温度が高ければ高いほど、効率は高くなるけれど。

C先生:このあたりの話は、その内、じっくりやることにして、今回の最大の目的は、日経新聞の「第4の革命 カーボンゼロ」を結末まで記述することだ。ここまで、9回目。実は、10回目もあって、技術的なことではないので、それほど面白いとも思えないのだけれど、兎に角、最後まで行こう。

A君:了解です。
第10回目で、そのタイトルが、『賢い財政 成長を左右』です。

B君:その記事が何を主張したいのか、というと、
「企業や家計だけが汗をかいても、カーボンゼロの実現は難しい」ということ政府も従来の財政支出を見直さなければ、温室効果ガスの削減は難しい。政府は、どのように財政支出をすべきなのか。

A君:米国だと、バイデン政権になれば、すぐさま「パリ協定」への復帰を表明する。そして、
政権1期の4年間で、2兆ドル(約208兆円)を環境インフラに投資する。電気自動車の充電拠点を50万ヶ所整備する予定。

B君:国連組織の
UNEPは、昨年12月に、各国がグリーンリカバリーを最大限に実施すれば、温室効果ガスの排出を最大25%減らせると主張している。

A君:欧州はさらに先行していますね。
フランスは、経済対策として2年で1千億ユーロ(≒12兆6千億円)を使うときめ、うち三分の一を環境関連にあてることを決めた。

B君:
英国も30年までに洋上風力発電など10分野に120億ポンド(≒1兆6千億円)を投じる、とのこと。

A君:コロナで航空機会社がかなり影響を受けたけれど、
欧州の政府は、航空機が排出するCOを真正面から問題にする方針。オーストリアは、鉄道で3時間以内につく場所を結ぶ航空路線は廃止することを決めた

C先生:それなら日本は何をしようとしているのか。

B君:
菅首相は、「例の240兆円を全部使わせようと思っているのだ」と発言したらしい。と言っても、これは国費ではない。昨年12月にまとめたグリーン成長戦略では、「企業の現預金が240兆円あるが、これをすべて投資に向かわせる」ということが書かれているとのことだ。

A君:そのため、政府は、民間投資を呼び込むために、2兆円の基金を作り、企業の研究開発を支援する。その期間も異例の10年間とする、とのこと。

B君:となると、
COの削減をしなかった企業からの税金として炭素税を作ることは必須だと思われるけどね。どうもそんなことは政府は考えていないようだ??

A君:
過去を振り返れば、日本政府のFIT(固定価格買取制度)は、どうみても、成功したとは言えないですね。FITとは、再生可能エネルギーを高価な価格で買い取って普及させる政策だったけど、その結果は、失敗だったという評価が多いですね。

B君:
制度に抜け穴があったからだ。発電事業者は、買取価格が高いときに政府認定を受け、太陽光パネルの値下がりを待って、稼働を遅らせた。発電事業者がそんなことをするのは、当然予測できる範囲内だったと思う。政府認定後、太陽光発電がフル稼働するまでの時間を設定すべきだった。

A君:
日本には、既存の送電網使用の自由度がほぼゼロ、と言う大々的な問題もありますしね。

C先生:やはり、
第4の革命を実現するためには、日本企業の考え方を根本から変えるようななんらかの枠組みを作る必要があるように思える。2兆円の基金で企業の研究開発を支援するのは良いけれど、その成果が不十分なまま終了した場合には、何割かのペイバック要求することを制度化すべきだ。勿論、なんらかの方法での救済も必要かもしれないので、その検討も必要不可欠だとは思う。
 
この日経の10日間に渡る記事の連載は、日本という国が、まだ、本気では動いていないことをはっきりと示した。多少の時間が掛かることは仕方がないが、企業にとっても、国民にとっても、納得感のある、そして、背中を十分に押すような枠組みが出来上がることが必要不可欠。これが結論だ。こんなところで、終わりにしよう。