-------

    ゼロCO2技術へのチャレンジ   02.14.2021
        例:鉄の製造法の長期ビジョン



 昨年末あたりから、気になっていること、それが世界が同じ方向に動くとき、日本という国が何かネガティブな影響を受ける可能性としては、金属資源の供給が十分あるかどうか、ということでした。
 例えば、電気自動車が主力になれば、電池が必要不可欠。現状だと
リチウム電池ということになりますが、その正極材料に使われるコバルトは希少元素であり、紛争鉱物として知られる金属なので、その供給が心配。その理由は、コバルトの過半量を生産する国が、コンゴ民主共和国だから。性能をやや犠牲にすれば、代替としてニッケルを使うという手もあるけれど、ニッケルも、やはり無限に供給可能という訳ではない。
  次は、
炭素の使用が問題という話。多くの国が、ゼロCO社会の実現を目指すとの宣言を行う中、炭素(コークス、黒鉛など)を還元剤として使う技術の多くが、見直しを迫られている。その理由は明らかで、炭素を還元剤として使えば、当然のことであるが、炭素は酸化されてCOになり、排出されるからである。
 それでは、
炭素以外にどのような還元剤があるのか。還元作用は、分子・原子レベルでの価数の変化を起こす元素を活用することで実現される。有機化学においては、分子への水素付加を還元と呼ぶけれど、金属精錬や無機化学では、水素・炭素・アンモニアなどによる脱酸素が主たる還元反応
 現時点までの
製鉄のテクロノジーは、炭素による還元を溶鉱炉と呼ばれる装置の中で行う方法によって、高温で溶融した鉄を製造してきた。当然のことながら、大量のCOを発生する方法論であった。
 となると、
未来のCOゼロ製鉄技術の進化を実現する必要があり、かなり様々なスタンスからの挑戦が行われることになると予測されるところである。
 さて、このような状況を根本から解決する究極的な方法論はどのようなものだろうか。


C先生:希少元素の話から始まったけれど、
どう考えても、この問題を完全に解決する方法は無さそうなので、議論をするのも難しい。それでも、国全体として、是非ともやらなかればならないことがある。それは、対応戦略をしっかりと構築しておくこと。その要素の一つが、完全なリサイクル体制の確立だろうと思う
 いずれにしても、
日本という国にとっては、苦手な話。その理由は、「戦略的にしっかりしたトップダウン」ができない国だから。現時点でのコロナのワクチン問題でも、予測・検討の甘さという弱点を露呈しているように見える。
 話変わって、
ゼロCO技術が、今世紀前半における産業界の最大の共通課題だと言える。しかし日本は、対応がこれまた難しい国なのである。ちょっと考えただけでも、CO大量排出の産業が数多く現存しているためである。鉄鋼業が代表例ではあるけれど、プロセスに高温が必要となる場合には、とにかく対応が難しい。
 それ以外でも、
これまでは化石燃料を燃料とするボイラーが主力であった。加えて、何らかの動力を必要とするときにも、内燃機関が使われてきた。勿論、電力も同時に使うことが普通ではあるけれど、発電の主力は依然として火力発電であることを考えると、いずれも、COを発生することは必須という意味で、ほぼ似たような状況であったと言える。

A君:今後、
CO発生量ゼロが世界共通目標になるのは明らかなので、となると、化石燃料を熱源にした設備は使用できなくなる。自然エネルギーで電力を発生し、それによって設備を運転する方式は、当然ながら、許容されますけどね。

B君:どうしても
何らかの燃料が必要となれば、炭素を含む化石燃料は使用不能だけれど、アンモニアあるいは水素であれば、燃焼して熱源にすることも不可能ではない。アンモニアの分子式はNHだから、燃焼排ガス中にCOは含まれない。勿論、排ガスに含まれる可能性のある酸化窒素に関しては、なんらかの排気処理を考える必要があるけれど、酸化窒素に量的にどれほどの重大さがあるのかどうかは、燃焼条件による。

A君:しかし、
アンモニアはそれ自体が有害物質だし、また、臭気が酷いので、余り使いたくはないですね。

B君:しかし、大前提として、日本の状況がある。すなわち、『日本なる国は、化石燃料を全く輸入しないで生きて行けるのか』。その答えとなると、『まず無理』というのが結論。風力発電と太陽電池だけできて行くのは難しい。
理由は、日本の気象はかなり気まぐれだからで、台風が来ることもその証拠の一つ。風力発電についても、日本の風は、ほぼいつでもそよそよ吹くヨーロッパの偏西風とはちょっと違う。そのため、日本で風力エネルギーは、条件が悪くなれば、発電量がゼロになる。すなわち、いずれにしても蓄電池が必須になるけれど、いくら蓄電池を持っていたとしても、その容量には限界がある。

A君:
COゼロがすべての国にとって義務だということになるとすれば、日本にとって頼りになりそうなのは、アンモニアを輸入することぐらいですかね。オーストラリアのメルボルンの近くで、といっても200kmぐらい東にあるBasin Creeek Fallsあたりに大量に存在する褐炭から水素を作って、アンモニアを合成し輸入するという状況になるような気がする。

C先生:
世界最初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ号」が、日本で進水したのが、2019年12月。それは、すでに、ICEFなる国際会議のページでご紹介した。2020年度から実証開始の予定だったが、コロナでどうなったのだろう。
https://www.icef-forum.org/pdf/2020/top10/Top10_ICEF2020.pdf

A君:兎に角、令和4年度までの事業だそうです。まだまだ時間が掛かるのでしょう。

B君:西暦で言えば、2020年2月に、研究開発の実施期間を2022年度までに延長したようだ。そして、事後評価期を2023年度に変更した。

A君:それに加えて、
2021年から「地域水素利活用技術開発」という項目が開始されて、これは、2025年度まで継続することになっているようです。

B君:しかし、新型コロナ・ウィルスが発生して、エネルギーより先に解決すべき問題になったので、さらに遅れる可能性も有りそうだね。

C先生:結局のところ、
日本なる国は、自然エネルギーによる自給が非常に難しい国だということが、常識というか結論になる。未来永劫そうなのか、ということになると、日本には人口減少傾向もあるし、各家庭が太陽電池と蓄電池を用意するような時代になれば、なんとか、エネルギー自給も目指すべきようにも思える。取りあえずは、風力発電のできるだけの拡張と、それに対応した送電網の整備も並行して行って欲しいところだ。しかし、人口減少の傾向が継続すると、経済活力も同時に低下する可能性もあって、いずれにしても、対応が難しい国だ。

A君:電力ですが、
太陽電池と蓄電池で自家消費量を満たすということになると、都会のの高層マンションでは、充分な発電量を得ることは不可能に近い。

B君:まあそうだろう。ペロブスカイト太陽電池をガラス窓にすべて張ったとしても、自家発電ですべてが行けるとは思えないね。

A君:ちょっと待って下さい。
今回の記事の副題は、「溶鉱炉以外での鉄の生産 特に、CO発生ゼロ」でしたね。ということは、話題がかなりズレたということで。

B君:確かにその通りだ。本題に戻ろう。溶鉱炉であれば、コークスと鉄鉱石、それに石灰などを投入して、溶鉱炉の下部から銑鉄を取り出す。これだと、
コークスは炭素だから、それを燃やせば、どうしてもCOが発生する。そのような検討も行われてはいたようで、直接製鉄法と呼ばれるようだ。

A君:
歴史的には、かなり昔からある考え方のようです。1963年に雀部高雄、原善四郎両先生によって書かれた日本金属学会会報の記事があります。10ページの記事です。しかし、これを読んでも、多くの場合、還元剤は炭素ですね。COゼロということの環境面での意味がまだ確立していない時代の技術だということですね。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/materia1962/2/2/2_2_66/_article/-char/ja/

B君:
「COゼロの鉄」を検索してみると、いくつか記事が出る。多くの記事が2020年以降だ。

A君:まあ、それも当然とも言えて、
鉄の生産過程で排出されるCOの総量は、年間約30億トンで、これは世界のCO排出量の約9%ですから、これがゼロになれば、地球温暖化対策としても重要な意味を持ちますから。

B君:ただし、
一般的な製鉄メーカーは、2018年に「2100年COゼロ」を掲げたのだ。ところが、2050年COゼロを主張する国が増えてきたこともあって、日本鉄鋼連盟も、「低炭素社会実行計画」なるものを作ったけれど、やはり実現性100%が条件だったような計画。

A君:
日本と言う国の弱点ですね。何か目標を立ててチャレンジして、80%ぐらい達成しても、100%でないと非難されてしまう。個人が努力すればなんとでもなる場合と、技術的に根本的な困難さを伴うような場合との区別ができない。すなわち、「日本人は技術音痴である」ことが前提となっているような対応。

B君:コロナ用のワクチンだけど、
日本で使う予定の注射器を使うと、本来なら1瓶のワクチンで6回接種できるはずだったのが、なんと5回しかできないことが判明してしまった。兎に角、このような国だからね。

A君:ちょっと引用文献が古いこともあるので、再調査をします。
 1月20日の日経のサイトから関連記事が見つかりました。
https://www.nikkei.com/nkd/industry/article/?DisplayType=1&n_m_code=026&ng=DGXZQOGR14AG50U0A211C2000000

B君:まさに関連情報だ。ソースは、
鉄鉱石欧州最大手のLKAB(スウェーデン)。2040年までに最大5兆円を投資し、COを排出しないカーボンフリーの鉄鋼原料の生産に参入する。

A君:その具体的な内容が、
「スポンジ鉄」と呼ばれる中間原料を作ること。スポンジ鉄は、銑鉄の代替となる不純物の少ない鉄で、これまでは、天然ガスで還元して作るのが一般的だったけれど、それでは、COが発生するので、LKABでは、水素を還元剤として使って、コークスや天然ガスを使わないプロセスでスポンジ鉄を作る。水素は、風力・水力発電による水の電気分解で製造する。

B君:提供する
スポンジ鉄は、スクラップの鉄と同じぐらいの価格(鉄鉱石の約2倍)を見込むとのこと。

A君:追加情報ですが、
鉄鋼業界は、全体として、世界のCOの7〜9%を排出しているので、COの排出が避けられない高炉法を、なんらかの方法に変える必要があるのです。日本製鉄は、水素還元法の検討しているとのことだけれど、このスポンジ鉄法もどうも有力のように見えますね。

B君:しかし、
水素還元鉄が勝つのか、スポンジ鉄が勝つのか、なかなか微妙らしい。ドイツのティッセン・クルップの幹部は、鉄鋼界の実態として、「自前で資金を手当てできる鉄鋼メーカーは1社もない。政府の支援が欠かせないし、企業の連合や提携も有効だ。欧州の鉄鋼業界の集約のために、選択肢を検討している」と述べたらしい。ということは、資本力が勝負ということか?それとも、自分自身で方針を決めることができる状況にはないという意味なのか。

A君:状況は良く分からないけれど、
中国の鉄鋼メーカーは、中国におけるCO削減義務が甘いこともあって、今までの製造方法で競争力が出ているのでは

B君:
もはや中国は発展途上国ではないのだから、公平な競争環境を作らないと。これが世界的な動向だと思う。都合の悪い対象が出てくると、突然、「まだ中国は途上国だから」という主張は、いくらなんでも、そろそろ終わりにしないと。

A君:
中国の鉄鋼業の総体的な地位は、取りあえずこのサイトを見ていただきたい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B2%97%E9%8B%BC%E7%94%9F%E7%94%A3%E3%83%A9%E3
%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0


B君:すごいデータだ。
Top50社の内、27社が中国か。過半数ではないか。なんでこれほどの数の鉄鋼業が商売になるのだろう。やはり、経済システムが全く違うということを示しているのだろうね。

A君:中国以外だと、
欧州が3社(ルクセンブルグ、ドイツ、スウェーデン各1)、日本が2社、韓国が2社インドが3社ロシアが3社アメリカが2社。大体、こんなものが普通の数でしょうね。中国はやはり論外に多い。

C先生:そろそろまとめよう。
これからの産業界での最大の課題が、「ゼロCOであらゆる製品を作ること」。となると、基礎材料である鉄、プラスチックなどを、まずは、ゼロCOで作ることが大前提になる。そして、「使用後の材料については、徹底的に再生して利用する」。となると、余りにも複雑な材料、例えば、複合材料などは、リサイクル可能かどうかの観点からは、できるだけ避けるのが無難ということになる。
 となると、
材料の機能を優先するという考え方を一時保留して、いかにして再利用可能な材料を作り、かつ、使うか、という価値観に切り替える必要が出てくることになる。歴史的には、恐らく、1970年頃に戻る感覚だろうか。
 目的年次が2050年だろうが、2040年だろうが、
CO排出をゼロにするということは、ある意味で、時代を相当遡るという価値観と、最新の処理技術の両立を図るということになると思われる。具体的な方法論が見えないと言われるかもしれないが、COゼロ優先という主張がいつから始まったのかを考えると、現状がこのような状況であることも、当然のことなのだと思う。柔軟な発想法がもっとも望まれる時代になったということだと思う。