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生涯被曝100mSvを目安  07.31.2011
      食品安全委員会の評価書をどう読むか



大幅に情報を書き換えました。

Facebookの環境学ガイドの参加者から、重大な情報が伝達されました。EUの規制値が、3月31日に一旦、かなり緩くなったのに、市民からの反発を受けて、結局、日本の暫定規制値と同じ値になってしまった。


 朝日新聞7月26日の夕刊の1面に、「生涯被曝100mSvを目安」食品安全委員会案、政府機関 初の見解、という記事が出た。この記事の概要である。

 食品安全委員会は26日、「悪影響が見出されるのは、生涯の累積で100ミリシーベルト以上」とする答申案をまとめた。
 中略
 同委は、外部被曝を含めた生涯の累積染料を示すことにした。ただ自然由来の放射線量は除く。子どもは成人より「影響を受けやすい可能性がある」とした。
 後略

コメントは安斎育郎・立命館大学名誉教授「100mSvという数字が独り歩きし、「ここまでは被曝しても大丈夫」という一種の許容限界と解釈されないかと恐れている。後略

 続いて、朝日新聞7月27日朝刊には、被曝基準 見通し立たず、「生涯100mSv」答申案、具体性欠く、という記事が5面に掲載された。

 この記事の概要である。

 食品だけでなく外部からの被曝も含め「健康影響が見出されるのは、生涯の累積で100mSv以上。平時から浴びている自然由来の放射線量は除く」という具体性に掛けるものになった。今後、パブリックコメントを経て、8月下旬にも厚生労働相に答申することになるが、厚労省は「回答になっていない」(幹部)と困惑気味だ。具体的な基準作りへの見通しが立っていない。
 中略
 細川律夫厚労相が諮問したのは、食品について「放射性物質の指標値を定めること」。厚労省幹部は「食品全体からの被曝が年間何mSvという数値を想定していた」という。 後略

 コメントは、長瀧重信・長崎大学名誉教授(被曝医療)
「放射線はこの数値以下なら安全でそれ以上は危険というものではなく国際放射線防護委員会(ICRP)も総合的に影響を論議して基準を決めてきた。本来は食品安全委員会だえでなく政府全体で総合的に現状に即して国民の被曝線量をどう減らすかを考えるべきだ。それに住民も参加して論議したらいい」。


 食品安全委員会の答申、表紙には、評価書(案)「食品中に含まれる放射性物質」という題名になっているが、その妥当性をどのように評価すべきなのだろうか。

 現在、パブリックコメントを求めている。食品安全委員会のいう「生涯線量100mSvが目安」が、今後、破壊的な影響を与えるであろうことは、福島県などの農業・畜産業の破壊、結果として復興の遅延、日本の食文化の伝統の破壊、X線・放射線の医療用途の妨害、そして、ICRPを始めとするこれまで行われてきた科学的リスク評価の否定などに及ぶ。これらに関係するすべての方々は、パブリックコメントに対応し、正しいと考えられる主張をすべきだろう。特に、ICRPの結果よりもさらに安全サイドの基準(目安)を設定しようとすることが科学的であると主張するのならば、ICRPに関与している専門家との全面戦争が待っている。
http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_risk_radio_230729.html

審議の結果(評価書というもの)は、PDFファイル
http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_risk_radio_230729.pdf



C先生:このところ、放射線の影響評価の話が継続している。かなり難しい問題なので、今回も、注意をしつつ話を進める必要があるように思える。

A君:生涯の累積で100mSvという目安は、極めて厳しいものです。例えば、福島市役所が現在0.8μSv/時程度ですが、この程度でも、年間7mSvになって、その後、Cs134の寄与が減ることが期待されるので、5年後で半分の4mSv程度。その後は減少速度が下がって、Cs137の半減期が30年ですが、主として、下水経由で河川に流出する、土壌中へ多少潜ることぐらいしか期待できず、実効的に10年間で半分の2mSvになるのがやっとでは。

B君:15年間での累積被曝の予想値が、60mSv程度になるということか。そして、次の20年で、25mSv。さらにその次の20年で、15mSvぐらい。55年間で、100mSvに到達する。この推測は、やや楽観的なものかもしれない。

A君:広島市の空間線量が現時点で0.05μSv/時程度。もしも、広島原爆がセシウム137を大量にばらまいたとしたら、半減期の2倍の60年以上が経過した現在でも残っているはず。

B君:原爆の場合には、高熱のために上昇気流がすごくて、揮発性のセシウム(671℃)やストロンチウム(1382℃)も、その他の核分裂生成物の大部分が、恐らく微粒子状で上空に運ばれた。その後、黒い雨は降ったので、上空から多少の核分裂生成物は地上に戻ったが、それでも、今回の福島原発事故の場合に比べれば、地上に残った放射性物質の総量は少なかった。
 長崎は、現時点での空間線量は正常値。しかし、爆発後、プルトニウムが雨で地上に戻ったためか、地上での被曝の影響が大きかったとされている。

A君:しかし、現時点では、プルトニウムはほとんど検出されない。その後の土木工事で、土が移動したためかもしれないが、大雨によって流されたとも考えられる。

C先生:長々と議論をしているが、結局言いたいことは、広島・長崎のケースは、特に、広島がそうだと言えそうだが、瞬間被曝型だった。それに対して、今回の福島のケースは、徐々に被曝量が下がるタイプで、広島・長崎に比べれば、ジワジワと被曝するタイプ。

A君:その通りです。なぜそこにこだわっていたのか、ということを説明しますか。

B君:OK。それでは本題に進むことにする。今回、食品安全委員会の評価書では、230ページも記述があるのだけれど、その本質的なところは、220ページからの2.低線量放射線による健康影響について、というところだけ。総量としては、約2ページしかない。そして、結論としては、「100mSv未満の健康影響について言及することは現在得られている知見からは困難であった」

A君:結局、何も分からなかったと述べている。それどころか、100mSvという被曝量を基準にしたことも、Preston et al.2003の論文だけを参照していて、他の論文の数値を無視している。なぜ、Prestonの論文だけを取り上げているのか、これだけを100%信用する理由が記載されていない。

B君:「以上から、本ワーキンググループが検討した範囲においては、放射線による影響が見出されているのは、通常の一般生活において受ける放射線量を除いた生涯における累積実効線量として、おおよそ100mSvと判断した」、と記載されているが、その判断した理由は何ら記述が無い。
 Preston の論文が100%信用できるのでなければ、この結論にはならない。

A君:しかも、広島・長崎のデータは、どちらかというと瞬間被曝型で、ICRPの1990年勧告でも、あるいは、2007年勧告でも、瞬間的に被曝した場合には、その影響は大きいとしています。この関係を「線量・線量率効果係数(DDREF=Dose and dose-rate effectiveness factor)」というもので表現するのですが、その係数は2〜10という数値があるものの、もっとも安全サイドである2を採用する、とICRPは述べている。

B君:もっとも安全サイドの数値2を取ったときに、100mSvという被曝量がどうなるのか、そこについては誰も結論を出していないのは事実だけれど、線量率が低いときには、100mSv以上でも安全だという可能性が高いことを意味する。

A君:Prestonの解析の対象は広島・長崎。瞬間被曝型のデータを使っていながら、なぜ「生涯における累積の実効線量」についての議論を行うことができるのか、全く分からない。

B君:確かに、もしもPrestonの論文が100%正しかったとしても、瞬間的な被曝に限れば、100mSvが影響が見られる線量だ、という結論しかでない。それから生涯における累積の実効線量を結論するのは、論理の飛躍どころではなく、単なるあてずっぽうに過ぎない。

C先生:これで一つ、結論がでた。それなら、どうやって食品中の放射性物質の線量の上限を決めれば良いのか。

A君:それは恐らく、発想を全面的に変える以外にない。まず、事実を述べたいと思いますが、EUの食品規制は、日本よりも緩いものだった。その理由は非常に簡単で、チェルノブイリがあったから。

B君:その状況は、次の2つのwebページが参考になる。

EU当局の回答
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/11/215

HACCPヨーロッパの解説
http://www.haccpeuropa.com/News2011_April/
Safety_of_food_products_imported_from_Japan_in_EU_%20questions_and_answers.html


A君:そして、規制値そのものは、4本の文書。
http://ec.europa.eu/energy/nuclear/radioprotection/doc/legislation/873954_en.pdf
http://ec.europa.eu/energy/nuclear/radioprotection/doc/legislation/89944_en.pdf
http://www.pdv.nl/lmbinaries/8069_3.02-7.pdf
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2008:201:0001:0001:EN:PDF (ミルクについては400Bq/Lを370Bq/Lなどと厳しくした。そのため、最新のデータは、小島氏の書籍とは
http://www.yasuienv.net/RadRiskCom2.htm 
違った値になっていた)。

B君:さらに、ごく最近(03/31)になって、EUは規制値をさらに緩めた。そして、その後、市民からの大反発によって、日本の暫定基準値と同じにした(04/13)。日本の暫定基準値が、EUのそれよりも低かったことが、EUをゼロリスク対応をせざるを得ない状況に追い込んだとも言えそうである。

特殊なマイナーな食品が入手しにくならないように規制値を高めた段階の数値を次の表に示す。その状況をドイツのWebサイトから引用すると次のようになる。

日本からの輸入品の基準を緩和に反対するドイツのWebサイト。
http://foodwatch.de/kampagnen__themen/radioaktivitaet/nachrichten/lebensmittel_importe/index_ger.html


表 上記Webサイトから引用したEUのCs134,Cs137の新旧規制値とあるが、新規制値は、3月31日に公布され、4月13日には、次の表に示す日本の暫定基準と同じ値に改正してしまった。


表 参考 日本の暫定基準値


表 結局、EUが日本の暫定基準値を認めて、同じ値にしてしまった。リスク評価をしていない暫定基準値を採用することの意味が全く分からない。


A君:ちなみに、国際的な合意としては、IAEAが定めた放射線事故が発生したときの食品基準があり、放射性セシウムは、1000Bq/kgとしています。

C先生:それにしても、日本で事故があると、EUが放射線の規制値を緩めたということは、どういう考え方なのだろうか。

A君:もしも、どこかの国で原発が事故を起こしたとしたら、日本なら、その国からの輸入食品の規制を強化するのでは。

B君:EUはそれを一旦は緩めた。それは合理的な判断かもしれない。しかし、本当のところ、どちらが良いかは分からない。日本にとってみても、日本製は避けるという消費者がかえって増える可能性がある。

A君:このあたりの柔軟性が食品安全委員会、もしくは、厚生労働省にあるか、ということがもっとも問われることかもしれないですね。

B君:しかし、EUのことだから、一応リスク評価をして緩めたのではないだろうか。

A君:日本の食品安全委員会がどのような態度をとって、どのような基準値を定めるのか、極めて重大な責任を背負っていると思います。

B君:しっかりと見張ろう。

C先生:厳しすぎる暫定規制値はどのような影響を与えているのだろうか。

A君:一つは牛肉。BSEの時には、全頭検査なるリスク上から見れば不要な政策をやって、実は、日本の牛肉産業を米国からの輸入牛から守った。

B君:今回の暫定規制値は、日本の和牛というものを絶滅させる可能性が高い。それだけではない。災害地域の産業をより困難なものにし、そのため、現在でも増加中と言われている自殺者がますます増えることに繋がる。

A君:まずは世界基準である1000Bq/kgまで緩めることが妥当な選択でしょう。

B君:EUだとこれまで600Bq/kgだったものが、1250Bq/kgまで緩くなったが、結局、最終的には、日本なみの500Bq/kgになった。。

A君:日本は緊急時なのだから、やはり国際基準である1000Bq/kgまで緩める必要がある。そうでないと、世界に誇る和牛だけでなく、日本の和食というものも、世界から消滅してしまうかもしれない。

C先生:そろそろ結論にするか。諮問を受けた食品安全委員会の責任は、この評価書で果たせたとはとても言えない。厚生労働省はこれを受け取らずに、差し戻しをすべきではないか。

A君:食品安全委員会としては、EUがどのようなリスク面での解析を行なって、今回の緩和を行なったのか。また、旧基準にしても、日本の暫定基準よりは緩いので、その基準値にした理由。さらには、その基準値をチェルノブイリ以来24年間守ってきて、何か疫学的に不都合なことは起きたのか、起きていないのか、などを解析する必要がある。

B君:勿論、食べている食品は違う訳で、その食品の特性を考えて、より細かい規制にするということは必要かもしれない。

C先生:いずれにしても、今回のようなアプローチでは結論が出ないことは最初から分かっている。食品安全委員会としては、最初から逃げを打っていたとしか思えない。
 もっとも、小島氏の著書にあるように、
http://www.yasuienv.net/RadRiskCom2.htm
少しでも規制値を緩和しようとすると、多数のメール攻撃を受けるという異常な状況にあるこの国で、しかも、その根源的理由が現在の政治的な状況に求められるとしたら、最初から逃げることも重要な戦略なのかもしれない。なんといっても、東京大学農学系の教授、吉川泰弘氏の食品安全委員への就任を認めなかった政党が政権にあるのだから。